コラム
自治体における民間連携に関するコラム(14) ハコとコト、ヒト
2018.05.29
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹
多くの自治体の公共施設等総合管理計画では、「ハコ(≒ハードとしての公共施設)とコト(≒サービス)を分離して考える」ことが概念として記されているが、実際の現場では、総量削減や諸室の集約・統廃合、つまり「ハコ」だけに目を向けていないだろうか。そもそも、ハコとコトを分離するのであれば、総合管理計画の目標が総量縮減(≒ハコのみ)であること自体に疑問が出て来ないのだろうか。
筆者も多くの自治体で公共施設マネジメントの現場に携わっているが、ある自治体では、1敷地の中にある老朽化・陳腐化した体育館・市民センター・図書館を統廃合して、新たな施設として再整備することを検討している。
建築系の大学が関与していることも影響しているかもしれないが、従来型の公共施設マネジメントのやり方では、それぞれの施設・諸室(≒ハコ)の面積を新しい施設に集約することでいかに施設面積を削減できるか、建築学として理想的な再配置・集約のモデルプランを作成し、それを市民ワークショップ、庁内の検討などに付していくこととなる。
このプロセスでは、それぞれの施設・諸室の利用率などは当然に検討対象となるが、実際にそれぞれの諸室でどのようなアクティビティ(≒コト)がどのレベルで行われているのか、サービス(≒コト)の提供主体と内容は適切なのか、新たなニーズとしてどのようなサービス(≒コト)が求められているのかといった検討が、議論の中枢に据えられることはほとんどない。つまり、個々のサービスが行われる諸室・施設(≒ハコ)をどのような面積・設えの諸室・施設(≒ハコ)に置換するのか、あるいは諸室・施設として削減するのか、ハコの議論がメインになってしまう。
同様に、総合管理計画で頻繁に用いられる「既存のサービスは維持する」という文言も、数十年前の設置条例をベースに、旧来型の貸館を中心とした既存利用者だけに目を向けた、既存サービスが入ったハコを守ることが前提の姿勢であり、結果的には自治体の思考停止を助長しているのではないか。
民間企業ではまず、ハコではなく、自らが提供する「価値ある」サービスを構築し、事業採算性やリスクを入念に分析しながら、必要なハコを調達するのが常識である。
行政にとって身近な事例で言えば、周辺に子育て世代が多く居住する八千代市の中央図書館では、指定管理者が自主事業として利用者の拡大とサービス(≒コト)の充実を図るため、図書館の一室を読み聞かせ・託児等のサービスを提供する場として整備し、子育て世代(特に0〜2歳児を抱えた母親)の居場所・サードプレイスを創出している。
この事例も旧来型行政、直営の施設でハコからの発想では、教育委員会の所管する図書館法に基づく図書館(≒ハコ)に、市長部局の子育て部門が所管する施設(≒ハコ)が入るという論理になる。財産区分をどうするのか、事故があった場合の責任はどちらが取るのか、条例上の位置付けをどうするのか・・・縦割り思考・ハコが起点となってしまうため、意外と難しいものになってしまう。
行政の職員が、公共施設の再編で本質的に議論すべきなのはサービス(≒コト)であり、そのための要求水準であり、各諸室の面積(≒ハコ)ではないはずだ。行政の要求水準を読み解き、その趣旨を協議の中で咀嚼しながら、サービスを提供するために適したハコにするのは、民間事業者の方が得意なはずであり、それが民間事業者の役割になるだろう。
こうした形で、コトから検討するのが本来の公共施設マネジメントであるはずなのだが、コトを中心に庁内で検討しようとすると、関係者・上司・議会等から「規模がわからない、どんな施設にしたいのか絵を持って来なければ議論できない」と指摘され、ポンチ絵などが登場することになる。
そうすると、議論はコンセプトや要求水準から瑣末なハコにシフトしていく。デザインはどうするのか、もっと幅広い用途にも使えるように、市民や議会の声を反映させろ・・・とリアリティが急速になくなり、「こうあったらいいな・多分こうなるだろう」と、ニーズとはかけ離れた旧来型の巨大なハコがまた一つ、自治体経営の負債として誕生してしまうのである。
コトを議論していくために必要なのが、ヒトである。市民としてのヒトの潜在的なものも含めた公共サービスのニーズがどこにあり、そのまちで代替可能な民間の類似サービスがどの程度見込まれ、どの民間事業者とどのような形で連携していくのか、資金調達はどのようにするのか、「自分ごと」として模索していくのが行政職員としてのヒトの役割であろう。
そして、行政は自前で当該サービス(≒コト)を提供するのであれば、どれだけの額を税金として投下するのか、一部でも資金を回収するためにできる付帯サービスは何かなどを、経営的な視点で検討し、徹底的に議論して合意形成を図っていくことがプロとして求められているはずである。
こうしたコトを起点に、そして焦点を絞った議論では、既存の利用者・納税者・議員・関係団体・職員などの様々なヒトの想い・思惑などが錯綜することになるだろう。これを一つずつ紐解いていくのもヒトである。そして、どこかで経営判断するのもヒト(市長が決断し、議決が必要であればヒトの総体としての議会)である。
つまり、ハコとしての抽象的・短絡的な話ではなく、身近でリアルなコトとして公共施設の問題を捉え直すと、総務省が先導してきた総量縮減を主眼に、そして地方財政措置を念頭に置いた公共施設マネジメントとは大きく異なる、ヒトの想い・意思を中心とした自治体経営としての公共施設マネジメントの姿が浮かばないだろうか。そのときに、ヒト・コト・ハコを様々な主体・資金で有機的に結ぶ≒PPP/PFIが有効な手段となり得ないだろうか。
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