コラム
自治体における民間連携に関するコラム⑬ PPP/PFIは大規模事業のための手法か
2018.03.28
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹
内閣府から要請された「多様なPPP/PFI手法導入を優先的に検討するための指針」により、人口20万人以上の自治体では2016年度末までに優先的検討規程の整備、10億円以上の総事業費または年間1億円以上の維持管理運営経費が必要な事業におけるPPP/PFI手法導入の検討がほぼ義務付けられた。
更に2017年度の骨太の方針では、これを20万人以下の自治体に拡大適用することが明示された。自治体や民間事業者の一部には、内閣府が記したモデルの事業規模がPPP/PFIの基準であると鵜呑みにし、「PPP/PFIは大規模な自治体の大規模事業を対象としたイニシャルコストの割賦払い手法、PFI=PFI法に基づくPFI」であるとの認識が広まり、これが逆にPPP/PFI普及の阻害要因の一つになっていないだろうか。
このコラムでも何度も述べているように、PPP/PFIは自治体が生きるための資金・マンパワー・ノウハウ調達のための手段である。歳出サイドの抑制に特化した行財政改革や税の再配分だけでは、必要な公共サービスを提供すること≒自治体経営は困難になっている。莫大なコストと人件費を投入して「ふるさと納税」に(自治体間による歳入の奪い合いと返礼品ビジネスによる消耗合戦だと気づいているかもしれないが、)総務省から是正要請が出されるほど血眼になっている姿も、歳入確保が自治体の主要命題になっていることの一端であろう。
一方では地道に税の徴収率向上だけではなく、自動販売機の設置、ネーミングライツ、施設・公用車・ホームページへの広告掲出、Yahoo!オークションを活用した土地・備品等の売却などの自主財源の確保を図る動きも活発化している。ふるさと納税と比較して金額や効果は小さいかもしれないが、これらも立派なPFI=民間からの資金調達である。同様に、指定管理者やアウトソーシングだけではなく、サウンディング型市場調査、コンビニや金融機関との包括連携協定などもPPP=民間事業者との連携である。
自治体職員を対象としたアンケートでは「PPP/PFIをやったことがない、価値が見出せない」といった回答が多く見られるが、このような視点で考えるとPPP/PFIの経験を全く有しない・必要性を認識していない自治体は皆無に近く、単純にPPP/PFIを誇大解釈・誤解しているだけだとも考えられる。
近年では、大阪市が大阪城公園・天王寺公園などの「稼ぐ公園」、姫路市が姫路城の改修費用の捻出のため「平成の姥が石愛城募金」で現物寄付等を併用した仕組みで5億円以上の資金を調達、別府市のクラウドファンディングによる「湯〜園地」など、民間事業者の資金・ノウハウ・マンパワーは多くの自治体で「生きる手段」として調達され始めている。PPP/PFIの用語は用いなくとも、PFI法に基づくPFIではなくとも具現化しているのである。
PPP/PFIはその概念や法制度を理解してから実践するものではなく、無数の課題を多くの関係者とともに一つずつ解決していく中で必然的に用いられる手法であり、実践を論理的に整理したときにPPP/PFIであったと気づくものなのである。
ではなぜ「PPP/PFIをやりましょう」と、手法が先行した瞬間に思考停止してしまうのだろうか。冒頭の(PFI法に基づくPFI事業が前提とされている)優先的検討規程に記されたPPP/PFIの概念・事業規模と自分のまちとの乖離、聞きなれない横文字への抵抗感、地元事業者の仕事を奪ってしまうのではという懸念、議会や市民との関係など、PPP/PFIが悪い意味で既成概念化されていないか。自治体の経営状況を正確に理解せず、「旧来型の行政システム・やり方を変えること」に対する様々な思惑、つまり本質とは異なる部分で躊躇しているだけではないのか。
まずは、思考回路を単純化してみてみよう。PPP/PFIを国の方針や法で規定されたもの、行政運営(≠自治体経営)上の要請事項として重荷に感じる必要はない。課題解決のために「自分たちだけで考えたり悩んだりせず」外部から資金・マンパワー・ノウハウを効率的に調達する手段と捉えれば、もっと気軽に活用できるのではないか。PPP/PFIによって視野が広がり、自分たちの仕事も効率化・高質化し、コスト削減・歳入確保やサービスの向上につながるとすれば、魅力的な選択肢にならないだろうか。
更に言えば、PPP/PFIはハコモノ・インフラに限定されるのだろうか。福祉・教育・環境などの分野でビジネスを展開している民間企業は無数に存在しており、その技術・ノウハウ・マンパワーは自治体の経営課題の解決に役立つものであろう。
自治体をとりまく環境は非常に厳しいが、人員削減・コストカット・先送り・施設総量削減といったネガティブで短絡的な手法だけでは明るい未来は見えず、市民や議会の理解は得られない。別のコラムでも記したとおり、自治体が「このまちの課題」を民間事業者とビジネスベースで連携して「ユルクトンガった」オモロいプロジェクトに昇華していくことで、はじめて希望は見えてくるだろう。10億円以上の事業規模である必要はない。全国各地で急速に広まるリノベーションの取り組みも、オモロくてビジネスベースだからこそ支持され、ユルクトンガッているのだろう。
まずは、自分のまちを真剣に見つめ直し「できること・オモロイこと」から始めてはどうだろうか。既成の枠に捉われず柔軟に資金・ノウハウ・マンパワーを調達していくこと(≒自然とPPP/PFIを活用すること)で結果的に、市民や議会の理解が得られる可能性も高くなるのではないか。PPP/PFIは生きるための手法であり、事業規模や理念が重要なのではない。
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