「創り上げたのは、見たい情報を、見ようと思ったときに、いつでも見られるシステム。今後は、さまざまな切り口から情報を分析し、質の高い行政サービスの創出に向けた事業の改善等に活かしていきます」
文京区 様
スムーズな日々仕訳方式への移行をFASTで実現
職員の意識改革を促し、データ活用の推進を図る
導入ソリューション
課題
日々仕訳で意識改革を
文京区は、東京23区のほぼ中心に位置する“文教のまち”だ。数多くの大学が校舎を構え、緑も充実。子育て世代に人気で、人口21万人と増加傾向にある。最近では、ふるさと納税を財源とする「こども宅食プロジェクト」が大きな注目を集めた。幼い子どもを抱える低所得世帯に食材を宅配する試みで、返礼品を用意しなかったにもかかわらず多くの寄付が寄せられた。2017年3月に区制70周年を迎え、さらに住民に寄り添うサービスを計画中だ。
その文京区は、新地方公会計制度(以下、新公会計)の導入にあたり、日々仕訳方式(以下、日々仕訳)を採用した。自治体へ複式簿記と発生主義会計を本格導入する新公会計では、日々と期末一括仕訳方式のどちらかを選択できる。多くの職員が行う伝票入力業務を変更する必要のある前者は職員の負担が大きく、一方の後者は、ある期日で締めて複式に仕訳し直すため、既存の業務フローおよびシステムをそのまま使い続けられる。そのため、全国的に見ると後者を選択する自治体が多いのが現状だ(※1)。
とはいえ、日々仕訳を導入するメリットは大きい。会計管理室の長村氏は、「日々仕訳なら、職員がその都度確認するので、データの精度が高まります」と話す。「新公会計のそもそもの目的は、財務データを活用して何らかのアクションを起こせるようにすること。職員の意識改革を促すためにも、日々仕訳の採用を決めました」
※1 ジャパンシステムによる自治体アンケート(2017年8月)によれば、日々仕訳への移行予定自治体は全国で6.5%にとどまった。
弊社が選ばれた理由
変わらずFASTをコアに
文京区は、2006年よりFASTを使い続けてきた。数度のバージョンアップを行っても変わらず評価は高く、全職員がFASTに慣れ親しんでいる。日々仕訳に伴うシステム追加も、FASTとシームレスに連携できるジャパンシステムの公会計支援システムを採用することになった。
「FASTをコアに使い続けることは大前提。私たちはシステムの専門家ではありませんから、日々仕訳部分を別システムにしてAPI連携してしまえば、万一問題が起きたときに原因の特定に時間がかかってしまいます。一方、FASTにアドオンできる仕組みなら、システム側で問題が発生するリスクを最小化できる上に、ユーザーインタフェースも大きくは変わらないため、現場にも受け容れられやすいと考えました」(情報政策課梅田氏)
新公会計の導入にあたり、まずやらなければならないのが固定資産の洗い出しだ。紙で管理されてきた台帳を紐解き、すべてをFASTの公有財産管理支援システムに登録する。このプロセスでは、簿記知識を土台に自治体の実情に合わせた柔軟な対処が求められ、簿記は組織文化になっていくのだが、そこを任せられたのがジャパンシステムのコンサルタントだ。高度な簿記知識と自治体向けプロジェクトのノウハウを注ぎ込み、資産評価や仕訳科目の設定などをスムーズに完了させた。
固定資産情報の整備が終わると、システム開発に移る。ここで文京区は2つの大きな方向性を示した。1つは、複数の視点でデータ分析をできるようにすること。組織別、施設別、事業別などの切り口を設定し、費用対効果などを測定しやすくできるようにした。もう1つは、現場に負担をかけないこと。入力する項目が増えるため、必然的に事務負担は増すのだが、それを最小化しようとしたのだ。
「予算科目は、部・款・項・目・節・細節、と細分化するため、そのままだと入力作業が大変です。そこで、節レベルまでの入力を自動化し、入力したい内容と勘定科目を極力1対1でひも付けました」(会計管理室齊藤氏)
さらに、たとえば「備品購入」を選択すると、「50万円未満は費用、それ以上なら資産に登録してください」といった話し言葉による案内も出るようにした。これにより、職員に簿記知識がなくてもスムーズな処理が可能になる。
「入力は、“変わったんだな”という意識付け程度で十分。大切なのは、帳票が複式で出てくること。伝票入力をするときに何らかの気づきがあって、出てきた複式の帳票を眺めると、さらに気づきが生まれることを目指しました。自然とそのような環境に変えることで、すべての職員に意識を高めてもらいたかったのです」(会計管理室長田氏)
プロジェクトはジャパンシステムのSEが主導。ほぼすべての部門に関係するシステムであり、関係部門とのミーティングは密に行った。より万全を期すため、約1年のプロジェクト期間で当初の予定を大幅に超える23回の全体ミーティングに加え、サブシステムごとの打ち合わせも頻繁に行った。担当SEは週に数度来庁してくれたという。「担当の方は、システムの専門家でありながら豊富な簿記知識を持っていて、簿記に詳しくない職員に対しても、わかりやすい言葉で説明してくれました」(長村氏)
効果
開発はウォーターフォール型で行った。スケジュールどおりに進めるためには、適時適切かつ確実なテスト報告が欠かせない。担当SEは、システム経験のない職員にもわかりやすいテスト報告書を作るなど、プロジェクトは計画どおりに進み、システムは2017年4月に稼働。稼働前には全職員向けの研修に加え、データ活用を目指す管理職向け研修、そして新公会計についてわかりやすく解説した自作冊子のPDF配布や職員向けメールマガジンの発行など準備を整えていた。稼働後の問い合わせ件数は、わずか10数件。予定より大幅に少なく、情報政策課ではスムーズな業務移行が実現できたと見ている。
今後の展望
さらなる情報活用に向けて
今後の計画は、初めての財務書類四表の作成。稼働後1年を経て年間の締めができる。今年の秋には、さまざまな切り口で調査・集計した結果を含む情報として公開できそうだ。そして、新公会計の目玉である情報活用へ。
長田氏は、「新公会計対応による情報活用はようやく緒についたばかりですが、“見たい情報を、見ようと思ったときに、いつでも見られるシステム”を創り上げられました。今後は、さまざまな切り口から必要な情報分析を行い、新しい視点で事業の改善等を実施していきます」と話してくれた。
お客様の声
「創り上げたのは、見たい情報を、見ようと思ったときに、いつでも見られるシステム。今後は、さまざまな切り口から情報を分析し、質の高い行政サービスの創出に向けた事業の改善等に活かしていきます」
左から、
会計管理室 長村 卓哉氏、情報政策課 係長 梅田 裕次氏、
情報政策課 大越 さつき氏、情報政策課 横山 公美氏、
会計管理室 齊藤 千鶴 氏、会計管理室 係長 長田 高志氏、
情報政策課 明石 海氏
※本導入事例は2018年3月現在の情報を元に作成しています