コラム

地方から世界をリードする「本物の豊かさ」を創る②「Do」の前に「Be」をこよなく大切にする・愛する

2017.09.12

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
一般社団法人 地方創生戦略機構 代表理事 中山 泰

Do」の前に「Be」をこよなく大切にする・愛する

前号では、行政を展開していく上で“財政の健全化”とその裏腹の“公的需要への要請”とが当時として共に一歩も譲れず先鋭に求められていて、動くに動きようのない「前門のトラと後門のオオカミ」の状況をどう打開していくのか、が問われていた地域の行政環境に言及しました。

ここからが重要なポイントなのですが、このような事態に向き合う姿勢として自分自身大切にしたのは、「『どう行動するか』の前に、まずは自らの足元を見、360°広く見渡しながら『今ここにあるもの、今あること、あるがままのこと、これをそのまま、こよなく大切にする! まず、こよなくそれらを好きになり、愛し、感謝する!』こと」、このことを出発点とすることです。

そうするとですね、愛しく視線を当てる“温かみ”の中から、周りの環境の内に隠れ潜んでいる本当の豊かさや魅力、価値が自然とあぶり出しのように浮き上がってきて、「宝」がみえてくるように感じています。 実はあたり一面、「宝だらけ!」「多彩な個性の宝にあふれている」ということに気づかされるのです。「アバタもエクボに見える」のではなく「アバタに見えていたものは実は本物のエクボだった」…のです。

金言にも「たとえば水の中に居て渇を叫ぶが如くなり。長者の家の子となりて貧里に迷うに異ならず。」(白隠禅師・座禅和讃)と言われます。そのエッセンスは、「気づかないだけで誰であれ、どこであれ、光り輝く宝は既にそれぞれの手の中にもっているんだよ。(明珠在掌)」ということだと理解していますが、人においても地域においても同様。大事なことはそのことにいかに気づけるか、です。

そのことに気づき、周りの環境の中からいろんな豊かさ、魅力、宝、それらの原石が見えてきさえすれば、自ずと、動くべき方向へと惹き寄せられます。その宝の原石を磨き、育んでいく、という真の「Do」が見えてくるのです。

京丹後市での事例から、いくつかご紹介したいと思います。

困難の本質は「宝物」 ― 京丹後市の例から

「上限200円バス」「高齢者上限200円レール」

新市誕生直後に、まず「上限200円バス」という取組みに挑戦しました。市内の路線バスは、当時、地方バスの他の例にもれず当地でも多くの路線でほとんど乗客がおらず、折に「空気を運んでいる」と揶揄されるような状況でした。ただ、だからといって、広い市域(約500k㎡)に鉄道は単線一筆ラインでもあり面的に動くバスは「住民の足」として欠かすことはできません。結果として、毎年8千万円にのぼるような運行補てんの予算を拠出して路線を維持している状況で、市の財政を圧迫する原因の一つにもなっていました。

しかしながら、草創期の工場があり、ご縁をいただいていた日本電産ご創業者の永守重信社長のお言葉に「困難は必ず解決策を一緒に連れてくる。」という至言があります。「困難の中に解決策やチャンスが既に入っている。あとはそれに気付くだけ。」「それゆえ、困難を「困難さん」と呼んでいる。」というもの。「困難さん」と呼ぶような気持で抱きしめればやがてキラリと輝く宝が顔を見せてくる、ということです。

京丹後市内のバスの状況は、「運輸施策」として見ればこのように「困難」そのものでしたが、見方を替えて「福祉施策」として見ればその中に「大きな宝」が潜んでいることに気づきました。

そこで、一定の条件下で地域独自の運賃体系変更を可能とした当時の規制緩和を活用し、「どうせならウンと料金を安くして、場合によって少し行政持ち出しが増えても福祉充実と割り切って、乗る人には大いに喜んで乗ってもらおう」、更には「『700円の区間で2人しか乗らない』なら『200円にして喜んで7人乗ってもらう』ことができれば収支もOK」を合言葉に、地域公共交通会議のご了承を得て、思い切って最高700円以上の区間も上限200円に下げることと決断しました。すると、市役所職員はじめ関係者の皆さんの頑張りで、1年目から利用者が大幅に増え、かえって料金収入も増えて、行政の負担が減る、という、三方すべてよしの結果になりました(数年で「乗客は2.3倍、収入は1.3倍、行政の持ち出し3000万円以上の減少」。)

困難から大きな宝が芽吹きましたが、なによりの宝は、高校生や地域住民の皆さんが率先してバス停ベンチを製作・寄贈いただいたりバス会社もおもてなし運動を一層御尽力くださったり、この取組みを囲んで、行政職員、地域の若者、高齢者、バス会社など広く住民、関係者の間で「助け合い、尽くし合い」の「協働と喜び」の和が育まれていったことだと感じています。

そして、バスの成果を確認しながら、鉄道の方も地域独自で「高齢者・上限200円レール」を展開しました。「2匹目のドジョウはいる!」と、収支がほぼ相応する目標として「利用者3倍増」を掲げ、区間によっては実質料金負担が1/7以下となるほど思い切って設定し、乗車運動、周辺他市町地域も含めた行事マップの製作・普及など取組みを進め、関係者、何より住民の皆さんと展望を共にして目標を達成することができました。

この政策的な意義は、鉄道に乗るわけですから、出かけるわけです。高齢者が出かけると歩いて健康になるし、自然、地域経済にお金も落ちるようになります。よって、交通の健康、人の健康、経済の健康、すべてが「健康」になる三方すべてよしの取組みへと発展しました。

「次号」で更に事例紹介します

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