コラム
自治体における民間連携に関するコラム⑧ 市民ニーズ・議会の意向と市場性
2017.07.27
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹
行政では、ハコモノ建設・建て替え・統廃合等を行う際に市民ニーズ・議会の意向を把握するために、市民アンケート、ワークショップ、有識者委員会、(公式・非公式の)議会との調整等を行いこれらの意向を十分に反映した基本構想や基本計画を策定・公表することが多い(というか定型のプロセスとなっている)。「聞いていない」などの手続き論での反対を抑制し、議論の後戻りを予防するために生み出された経験知・暗黙知による「賢い」方法であるが果たしてこれだけでそのまちの未来を左右するプロジェクトを進めて問題はないのか。
ある自治体では、非常にポテンシャルが高そうな未利用地の活用に向けて、地元の有力者・文化人・学識経験者などで構成する有識者会議を立ち上げ、「癒し・食・くつろぎ・・・」といった土地活用のコンセプトを取りまとめた。様々な要素が散りばめられ、わかりやすく、誰からも愛されるものだが誰でも描ける行政の模範的・総花的な土地活用の姿でもある。
このようなプロセスを経て莫大な税金投入の意思決定をして整備したどこのまちでも見かける優等生のような場「こうあったらいいな」に果たして人は来るのだろうか。そして、そもそもの公金投入の妥当性は確保されているのだろうか。人が「そこを目指して来る」ためには、隣接・近隣自治体だけではなく純粋な民間施設、日本全体、更に言えば世界全体を見渡した差別化が必要であるし少なくともそのサービスと商圏がマッチしていなければ人も集まらず、ビジネスとしても成立しない。
民間事業者が同種の土地活用を検討する場合には、ビジネスとして当該地のポテンシャルをいかに引き出すのか、資金調達・運営コストなども含めて利益を最大化することに知恵を絞る。もちろん、行政は公益性・公共性を確保しなければならないが、福祉・教育をはじめ、本当に手を差し伸べなければいけない多様な公的サービスの財源の確保も難しい財政状況で公金を投入し続けなければ継続しえないような採算性の低い土地活用は「こんなはずではなかった、公的サービスなので仕方ない」では済まされないはずである。
実際に数年前までコンパクトシティの代名詞として富山市とともに優良事例と紹介されていた青森市では、中心市街地活性化の目玉であったはずの再開発ビル、アウガが窮地に立たされ市長と2人の副市長が揃って辞職に追い込まれる事態となった。南アルプス市では、六次産業の活性化を目論んで整備された南アルプス完熟農園がわずか数か月で休止に追い込まれている。南アルプス市では市長が「当初からビジネスモデルが破綻していた」と詫びたが、最終的には市民が失敗のツケとトラウマを負わされるのである。
ワークショップ参加者、有識者や議会は「夢のあるプラン」を誰よりも描けるかもしれないし「みんなが」満足できる(瞬間的な)納得性の高い方向性を示せるかもしれない。しかし、当たり前だが夢だけで未来はつくれない。残念ながら、これらの人々は経営責任をかけて意見を出しているわけでもないし、自らの財産をかける必要性もない。行政は「みんなの声を・・・」と広く夢をかき集めているうちに夢見心地になり、更に経営責任を不特定多数の顔の見えない「みんな」に転嫁し、公金を投入する重さはどこかへ置き忘れてしまっていないか。
同様に近年、公共施設マネジメントで流行しているボードゲームにも似たような危うさを感じる。参加者が総務部長、ヘビーユーザー、全く施設を利用しない負担者市民などの架空の役割を担い、架空の施設でハコモノ・サービスにそれぞれ価格をつけ、統廃合のシミュレーションをしていくものである。頭の体操や原理を理解するのには役立つかもしれないが、例えば総務部長には総務部長のバックボーン、議会を含む多様な関係者との駆け引き、関係や立場があり、本音では理解しても建前上はYesとは言えないこともある。また、架空の施設が統廃合されても反発は発生しないが、リアルな施設でこういったことを軽くやれば炎上必至である。
これらに共通する危うさとは「リアリティの欠如」である。明るい未来、夢を描くのは絶対的に必要であるし使いやすい施設のために利用者の意向を反映することも重要である。30年で30%削減といった一昔前の行財政改革だけでは未来がないことも明確である。重要なのは、市場性の裏付けをもったリアリティのある明るい未来への道筋をいかにつくるかである。
これまでと同じ生き方が通じない、生きる手段として民間からの資金・ノウハウ・マンパワーの調達が避けられない状況下ではビジネスベースで民間事業者が参入したくなる仕掛け≒市場性を当初から検討しなければいけない。市場性を把握するうえで難しいことは必要なく、基本構想の着手時期など最も早い段階から民間事業者の意向を幅広く捉えるサウンディング型市場調査のプロセスを組み込めば少なくとも「初歩的・そもそもの」失敗は防ぐことができる。
多くの民間事業者が興味・進出意向を示し、様々な提案を自発的にしてくればその土地・あるいはコンセプトに「市場性がある」ことが判明するし、逆であれば市場性が低いことがわかる。そのうえで適正に市場性を的確に反映したプロポーザルにより相手方を選定すれば、前述のような課題はある程度解決されるはずである。もちろん、市民・有識者・議会の声も無駄と言っているのではない。リアルな市場性と合わせて、時には市場性を説明しつつ市民や議会の声を聞いていけば「こうあったらいいな・こうなるだろう」だけではなく、将来的なコストや具体的な利活用の方法まで含めた議論に深まっていくだろう。そして、全体を見渡して責任を持った経営的な判断を下すことが行政の役割であり自治体経営を意味するはずである。
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