コラム

都市計画と公共施設マネジメントコラム①「立地適正化計画について」

2016.07.28

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
首都大学東京助教 讃岐 亮

2016年2月、全国で初めての都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画が策定された。策定自治体は、大阪府箕面市である。

都市計画行政においては、従来から「コンパクトシティ」という用語が盛んに用いられてきた。20世紀後半、我が国は限りある国土に縦横無尽に開発の手を伸ばしてきたが、バブル崩壊、経済の低成長期を経て、21世紀に人口減少の時代を迎え、「都市の縮退」を前提とした都市計画行政のあり方が語られるようになった。その流れの中で、国土交通省は「立地適正化計画」という新しい都市計画制度を作り、住宅や商業施設、福祉施設等を集約するための具体的方針策定を全国の自治体に呼びかけたわけである。

それに最初に反応した自治体が、箕面市であった。ただしそれ以外にも、同時期に策定中であった自治体は複数存在する。また、それら自治体や、今追随している自治体が抱えている課題は多岐にわたる。そうした点について紹介しつつ、この計画を通して見えてくる公共施設マネジメントとの関係について、このコラムで紹介していきたい。今回は、立地適正化計画の概要を中心に綴る。

コンパクトシティという都市像を目指して、先駆的な取り組みを行った自治体は既に存在する。たとえば、青森市、富山市などである。これら自治体の都市計画が本当に上手く機能しているかどうか、という点については議論の余地はあるが、いずれにしても人口減少時代における新たな都市像としての一つの回答ではあるだろう。立地適正化計画も、その流れを汲んでいる。具体的には、2014 年に都市再生特別措置法が改正され、立地適正化計画という制度が加わった。

立地適正化計画は、都市空間に「都市機能誘導区域」や「居住誘導区域」といった区域を定めて、都市施設や住宅の立地をコントロールし、中長期にわたってコンパクトな市街地を形成することを目指した制度である。もう少し具体的に解説すると、まず商業・公共施設等を集約したい場所(たとえば中心市街地)に都市機能誘導区域を、さらにその一皮外側まで含めて居住誘導区域を設定する。このとき、ある特定の機能、たとえば医療施設・福祉施設等、中心に集約したいものを誘導対象となる「誘導施設」に設定する(民間施設の整備に対する支援や立地を誘導する仕組みを導入することが前提となる)。こういった集約地域を複数設定する場合、これらを地域交通ネットワークでつなぐ。このようなプロセスの各段階で、各市区町村が保有する既存計画や独自のアイディアが、計画に反映される、というものである。

ここで興味深いのは、まちづくりへの公的不動産の活用を、立地適正化計画の中で謳うよう指導しているにもかかわらず、誘導施設として推奨するのは「民間施設」という点である。人も民間も誘導するのであれば、まずは自分たちの持ち物を検討したら?と、市民ワークショップで声があがってきそうである・・・。しかしながら、一般的に公共施設には住民へのサービス提供の公平性が求められるため、居住誘導区域外でも居住そのものは存在する状況では、区域外の公共施設を一挙に廃止するというわけにはいかない。つまり、セーフティネットたる公共施設は、誘導が終わった後に動かすものである、という国交省の思惑が見えてくるわけである。

もっとも、将来のまちのあり方を見据えた公共施設の再配置は、公共施設マネジメントの考え方と合致するし、実際に財政状況の悪化から多くの自治体において施設総量の縮減が必要である現状に鑑みれば、この立地適正化計画が定める誘導区域の内外、または遠近という評価項目を、投資すべき公共施設の選択ないし順位付けに生かすことができるのではないだろうか。

現時点では、地方分権の時代のもと、制度は全国一律に適用されるわけではなく、制度の導入可能性を検討するために、各地の自治体が検討をスタートした状況にある。理想論としてのコンパクトシティではなく、現実的な、現場に促した検討が進められているところであり、我が国の「都市をたたむ」※取り組みは第二段階に入ったと言ってもよいだろう。公共施設等総合管理計画や施設白書の策定も並行して行われる中で、ますます公共施設マネジメントと都市計画行政との連携が求められる時代になっている。

国土交通省によると、平成28年3月31日現在、276の自治体が立地適正化計画策定に向けて具体的取組を行っている。そして、平成28年6月1日現在、公表順に大阪府箕面市、熊本県熊本市、岩手県花巻市の3自治体が策定を終え、公表している。現時点で策定最終段階にある自治体も多く、これからは公表自治体が続々と増えていくはずである。公共施設マネジメントに関する記述がどの程度あるか、要注目!

立地適正化計画を「現実的、現場に即した」と表現したが、これは、それぞれの自治体の地域特性に合った計画とすることができる、という利点を表す言葉である一方で、取り組む担当部署、担当職員の苦労を反映する言葉でもある。立地適正化計画の策定段階における自治体へのヒアリング調査の中で、課題については様々浮かび上がってきた。それについて、次回コラムで触れることにしたい。

※饗庭伸:『都市をたたむ 人口減少時代をデザインする都市計画』, 花伝社

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