コラム

2020(令和2)年度予算を探る(1)基本方針2019、概算要求基準ならびに概算要求額

2019.10.01

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
明治大学公共政策大学院教授 兼村高文

公共に関連する業務に携るところではそろそろ来年度予算の動向が気になるところではないでしょうか。世界経済が米中貿易摩擦に振り回され、欧州の優等生であるドイツさえもマイナスに沈み込ませる事態が生じれば、安倍政権がどのような予算をまとめるのか気になるところです。そこで本コラムでは、政府予算案が公表される12月末まで予算編成の動向を追ってみたいと思います。

基本方針2019の特徴

政府の予算編成は対外的には経済財政諮問会議が答申としてまとめる基本方針(骨太方針)から始まります。同会議は2001年に小泉首相が内閣主導で予算編成を行うために設けたもので、毎年6月頃に公表される基本方針はこれまで民主党政権で一時中断されましたが政府予算を特徴づけてきました。最近は骨太方針をマスコミが大きく取上げることも少なくなり注目度も低くなりましたが、首相が議長を務める同会議の答申はいまも予算編成の基本方針であることに変わりはありません。

令和を冠した予算は初めてとなる2020(令和2)年度予算は、6月21日に「経済財政運営と改革の基本方針2019~「令和」新時代:「Society5.0」への挑戦~」(基本方針2019)が「成長戦略実行計画」や「規制改革実施計画」、「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」などとともに閣議決定され、これらをもとに政府は7月31日に概算要求基準(シーリング)を閣議了解して、予算編成作業が動き出しました。

基本方針2019の特徴をみますと、副題に‘令和新時代:Society 5.0への挑戦’とあり、新たな令和時代に向けた予算というイメージを受けますが内容は全体的には昨年来の継続という印象です。主なポイントは、人生100年時代における70歳までの就業確保、就職氷河期世代の正規雇用支援、デジタル市場のルール整備、消費税10%へ引上げ、民需主導の成長力の強化等々です。なおSociety5.0は、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会として政府が第5期科学技術基本計画で示したもので、IoTで情報を共有しながらAIで提供して経済発展と社会課題の解決を図るという期待を込めたものです。すでにクラウド技術や無人ロボット、スマートシティ、ドローンなどで活用され、Society5.0への挑戦は今後の課題解決と価値創造という点からは重要なキーワードということができると思います。

概算要求基準の撤廃

概算要求基準は各省庁に対する予算要求の上限額でシーリングとも呼ばれてきましたが第2次安倍政権から上限がなくなりました。シーリング自体は1961年度から設けられ財政再建のためにマイナス・シーリングが設定されたときもありました。官邸主導で‘聖域なき構造改革’を断行した小泉政権ではシーリングで歳出を抑えたのに対し、アベノミクスを掲げて機動的な歳出を進めてきた安倍政権はシーリングを取っ払ったわけです。上限がなくなりましたので各省庁の要求額は増加傾向にあります。

7月31日に閣議了解された「令和2年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(概算要求基準)の枠組みをみますと、公共事業などの裁量的経費は19年度予算から10%削減を求め、人件費を含む義務的経費も減額を要求しています。ただいずれも削減した額の3倍(4兆4千億円程度)をAIなどの成長分野に「新しい日本のための優先課題推進枠」として回せますので増額となります。社会保障費は自然増を19年度の6千億円より700億円減らし5,300憶円としています。また10月の消費税率10%への引き上げに伴う景気対策費については、額を定めず概算要求基準とは別枠を設けています。なお同日に諮問会議が中長期の財政試算を発表しましたがそれによるとPBの黒字化目標である2025年には赤字が2.3兆円に上るとの見通しを示しました。世界経済の陰りの影響もあり健全化は厳しい道のりです。

2020年度の概算要求額は過去最大の104兆円

財務省は9月5日に各省庁から出された2020年度一般会計予算の概算要求総額が104兆9,998億円で過去最大になったと発表しました。19年度当初予算と比べて3兆5,427億円(3.5%)増えています。これに10月の消費税増税後の景気対策が別枠で加わるため当初一般会計予算は100兆円を大きく超えて過去最大になることは確実です。省庁別では社会保障費増で厚労省が32兆6,234億円、防衛省が国防力強化など5兆3,223億円でともに過去最大となり、国債費も6%増えて25兆円近くになりました。ただ財政投融資計画の要求額は19年度当初計画を10%程下回り11兆7,315億円で2001年度の財投改革から最低となりました。かつて第2の予算といわれた財投計画はその役割を終えた感があります。

現在の財政状況を鑑みれば予算編成で最優先すべきは赤字公債依存からの脱却を確実にすることではないでしょうか。国税収入が60兆円を超えて過去最大であるいまこそ、確実な財政健全化に舵を切るべきと筆者は考えます。景気対策の予算も必要ですが直近の厳しい見通しも考慮しながらより踏み込んだ健全化も盛り込むべきと思います。英国のキャメロン政権(2010-2016)は財政赤字が経済にマイナスであるとの考えから、国民の反発を買いながらも緊縮政策を続け結果的には成長を持続させました。財政の健全化は景気対策ということもできるわけです。

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