コラム

デジタル社会形成に向けて 第2章(3)~自治体DXの先に~

2022.03.07

前回までのコラムにおいて、訪問型の行政サービスに絞って、その効果測定の段取りを図化しました。(下記記載)今回の前回からの続きで、「対象サービスの資源情報収集」から説明いたします。

図:訪問型行政サービスにおける効果測定フロー

対象サービスの資源情報収集

「資源情報」というのは、如何にも鹿爪らしい(※1)表現になっておりますが、要するに、これから受けようとするサービスについて、例えば、施設を利用するタイプであれば、その施設の設備・属性が問題になるかと思います。施設が新しいのか古いのか?大きいのか小さいのか?設備は充実しているのかいないのか?更には、これが一番大きいのかも知れませんが、利用料・使用料を取るのかどうか?など。当該施設の属性が利用者のサービス選択に影響を与えていると考えられるため、便益の推計に際して、可能な限り施設の属性を収集しておくべきである、というのが通説です。施設本体の情報については、固定資産台帳が役に立つでしょう。ただ、附属設備や備品などの情報が整理されているとは限らないため、過度な期待は禁物かも知れません。

とはいえ総括された情報でも、ある程度の施設情報を表現することは可能かも知れません。例えば、固定資産台帳上の簿価(単位面積あたり)を確認し、その簿価が大きい場合は、お金が掛かっているということなので、施設内容は充実しているという予想ができます。すなわち、単位面積あたりの簿価を、施設の充実度を測る代理変数にしようという訳です。

対象サービスの資源情報収集

次の「利用者情報の収集」は、実際にサービスを利用する人の属性になります。性別・年齢、場合によっては、職業・住所・収入に関する情報など、かなりデリケートな項目が含まれます。今後の政策を考える上でも、行政サービスに対する利用者情報は、可能な限り細かく欲しいところです。

実際、民間ビジネスにおいては、マーケティング活動の一環として利用者情報の取得は行われております。「行政サービスにおいて、住所や収入に関する情報を取得するのはやり過ぎではないか?」というご指摘が有るかと思いますが、便益を計算する上では、是非とも欲しい情報になります。利用者が移動しないと受けられないサービス(移動型サービス)の価値計算においては、移動コスト(移動距離×時間単価)がメインになります。そのため、移動距離を計算するには利用者住所が、利用者の時間単価を計算するには収入情報が必要になるという訳です。

ここから余談になりますが、移動型サービスの便益を計算しようとして、民間のアンケートサービスを利用することがあります。アンケートサービスを行う企業には、多くの一般市民の方々が「サンプル」として登録されております。そこでアンケートを行う企業に対し「●●市内在住者に、以下に示すサービスを利用したかどうか?また、その頻度はどうか?」と条件を提示してアンケート調査を依頼します。すると、企業からは「その条件だと、サンプルサイズは200人が上限です。また、個人情報の関係で住所は町・字単位までしか出せません」と回答があります。アンケート項目数にもよりますが、数十万円の見積を頂戴します。個人を特定したい訳では無いのですが、正確な住所情報の取得は極めて困難なのが現状です。

とはいえ、予約が必要となる公共施設において、利用申込者の個人情報を取得しておりませんか?個人が特定できない状態にした上で、政策立案に利活用できれば望ましいですし、最近注目されている「都市OS」(※2)などが導入された暁には、利用者のオプトイン(※3)で、データ取得が容易になります。繰り返しになりますが、効果測定を行うために、個人を特定したい訳ではございません。反対に、個人単位に寄り過ぎてしまうと、妙なバイアス(※4)が掛かってしまいます。したがって、様々な属性から構成される「利用者グループ」ごとに、どのようなサービス選択上の傾向を示すのか、そこを知りたいのです。

価値計算の方法~情報が意思決定にどれだけ影響するか?

「価値計算の方法」以降については、かなり技術的な話になってしまいます。上述の様に「属性情報」と「利用者情報」が収集できたとして、次に問題になるのは、どの情報とどの情報が、利用者のサービス選択に対して影響を与えたのか?仮に与えているならば、その意思決定に対してどれ位の大きさで影響を与えているのかを突きとめたい、という話になります。

例えば、あるグループにおいては、AとBとCの条件(変数)が、サービスを利用するかどうかについて決定要因となっている、ということが判明し、仮にサービス利用を増やしたいと考えているならば、そのA、B、Cをコントロールすることで、理論上はサービス利用を増やすことが出来る訳です。「因果関係の整理は大丈夫か?因果が逆になっているのではないのか?」など、難しい議論になってしまうため、その辺については、次回以降でもう少し。(つづく)

コラムニスト
公共事業本部 ソリューションストラテジスト 松村 俊英

参考

  • ※1態度・話し方がもっともらしい。形式ばっていて堅苦しい様子のこと。
  • ※2都市にあるエネルギーや交通機関をはじめ、医療、金融、通信、教育などの膨大なデータを集積・分析し、それらを活用するために自治体や企業、研究機関などが連携するためのプラットフォームのこと。
    https://mobility-transformation.com/magazine/cityos/
  • ※3加入や参加、許諾、承認などの意思を相手方に示すこと。個人情報の収集や利用などを承諾する手続き。
    https://e-words.jp/w/%E3%82%AA%E3%83%97%E3%83%88%E3%82%A4%E3%83%B3.html
  • ※4この場合、偏見・先入観のこと。

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