コラム

公共政策&行政改革コラム③「『地方創生』ってなんだろう?〜お国様からいわれなくてもできる『地方創生』」

2016.10.04

ジャパンシステム株式会社 公共政策・行政改革ディレクター 山中 光茂

「地方創生」という言葉が言われはじめて数年が経ちます。国家の方針として、地方を重視していくということの象徴的な言葉なのでしょうが、現場で「地方」を預かる首長としてその言葉に対して正直、何の期待も感じなかったことを覚えています。実際に、「地方創生」に関わる国家予算のあり方としては、「各地域が地方創生の計画を創ること」「地方の独自の取り組みに特段の支援をすること」それ以上でもそれ以下でもないものでした。

基礎的自治体は日常から「地方創生」そのものの仕事をしています。国から言われて地方創生のプログラムを創ることを自前でせずに「劣悪な行政コンサル」に高額で委託をしたり、市の予算だけで独自の発想で十分出来る事業をわざわざお国様の「許可」を得ながら無駄な財源までつかってしまうなど、多くの自治体が国の「地方創生」をしているというパフォーマンスに巻き込まれていたのです。

そもそもすべての基礎的自治体の事業は「地方創生」そのものなのです。お国様からいわれてその手続きに乗っからなくても、常に「地方創生」をしていたはずなのです。

市長の判断だけでなく、現場の職員一人ひとりの判断や行動そのものが、市民の幸せや地域の未来づくりに、一方では地域の崩壊や市民の痛みにつながっていく、それが地方行政そのものであり、国にいわれなくても日々の業務が「地方創生」以外なにものでもないのです。

国や県の事業は、地域の現場における幸せや痛みに直接携わらないからこそ、個人の利益よりも組織的な利益、地域全体の利益を前提とします。そして、中長期のビジョンを創り、基本的なルールづくりと財源管理をしっかりとします。現場のことがわからないからこそ冷静な立場で中立性や公平性、未来への継続性を保とうとするのです。

もちろん、国家は国家で外交防衛や福祉のナショナルミニマムづくり、財政の再分配機能など重要な仕事があります。でも、現場の本当の痛みや幸せを常に感じながら仕事をしているのは、市町村という基礎的自治体であり、その地域に応じたルールづくりや財政マネジメントができるのも基礎的自治体でしかないのです。

私は市長という仕事を約7年間させていただき、その基礎的自治体の代表者としての「権限」の重さに常に緊張感を持ち続けざるを得ませんでした。もちろん、自治体経営において国家が創った法律や財源の最低限の枠組みがあるのは事実です。ただ、その制約は各基礎的自治体が「やりたいことをやる」ことに対して、障壁になったことは一度もありませんでした。多くの自治体が「お国様」に「地方創生」をいわれて、初めて「地域づくり」に立ち向かったかのようにみえるのは、これまで国が何かの制約をかけていたからではなく、単なる自治体の「思考停止」と「怠慢」に起因するものに過ぎません。具体的な事業を地域独自で組み立てること、それぞれの立場の方々にどのような配慮の基準を創るのか、今の世代と未来の世代にどのような分配をしていくのか、街の未来をどのように築いていくのか、市民の声をどのように聞いて反映をさせていくのか、それは基礎的自治体単独で十分出来るというよりは、基礎的自治体でしかできないのです。

ただ、基礎的自治体には十分すぎる権限があるにも関わらず、なぜ「思考停止」と「怠慢」になるのでしょうか。その理由の一つは、「発想がないこと」、もう一つの理由は「行動するモチベーションがないこと」です。

「発想がないこと」というのは、行政は「前例」を大前提にして行動をする癖がついているからです。新しいことにチャレンジすることでメリットを創りだすリスクを冒すよりも、前例に基づいてそれなりの結果をローリスクで判断し行動していくことが優先されるのです。一人の行政職員は、一般論としてミスに対して責任は取らされますが、新しい「発想」への評価は組織としての評価に収束されるだけだからなのです。

また、「行動するモチベーションがないこと」は、新しい仕事が増えることに対する職員の「めんどうくさい」という消極的な精神から生まれます。基礎的自治体の職員は、常に「今行うべき」現場の仕事を抱えており、新しいことに取り組むためには「今の現場での仕事」をなんとか整理をしてからしか動けないという現実があります。また、財政に対してリーダーシップがとれない首長のもとでは、財政部局が政策内容を考慮することなく予算の総枠維持を最優先の目的にします。そのため、「今の現場での仕事」の予算を何かしらカットしない限り、新しい予算を認めてもらえません。だから、新しいことができる「地方創生の可能性」があっても「まあ今のままでいいか」というめんどうくさい気持ちになるのです。

ということは、裏を返せば「発想を生み出すこと」「職員のモチベーションを創りだすこと」ができれば、地域独自の「地方創生」はいくらでも動き出していくのです。

「発想を生み出す」ことは従来の職員の感性だけではなかなか生み出せません。だからこそ、様々な企業や地域住民からの柔軟で多様な声を聞く必要があります。そして、組織として取り組むリスクをマイナス評価しないという「システム」を創ることも大切になります。

「職員のモチベーションを創りだす」ためには、行政内部において予算の枠配分にこだわらない政策の必要性に応じた事業推進ができる「システム」を創る必要がありますし、その事業推進のために柔軟に人員配置をおこなうなど、組織変更を実施するトップとしてのリーダーシップも求められます。

地方が自分の力で生み出していく真の「地方創生」のためには、基礎的自治体自らが「古い行政体質」から「新しい行政システムの構築」に向かわなくてはいけません。私が松阪市で取り組んだ「市民参加型」や「企業との明るい癒着」という行政スタンスはあくまで一つの自治体実践の事例にしかすぎません。今後のコラムにおいては、より具体的な「地方創生」というよりは「地域づくり」という現場での声を生かす自治体の工夫について話をしていきたいと思っています。

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