コラム
公共政策&行政改革コラム⑦ 赤字運営の公営施設の抜本的改革 〜廃止まで検討された市民病院事業と競輪事業の改革プロセスから(後編)
2017.08.17
ジャパンシステム株式会社 公共政策・行政改革ディレクター 山中 光茂
前半コラムにおいて、病院改革の効果的な民間手法の導入、公的セクターの改革について話をいたしました。今回は、公営ギャンブルという分野を例にとっても行政が関わることによる明確な非効率性が生じていた事例を紹介し、民間手法の導入による具体的な効果が生まれた経過について述べさせていただきます。
海外の民間カジノにおいても、日本のパチンコ業界においても、90%以上の還元率(胴元への分配が10%未満ということ)のもとで、胴元が十分に大規模な利益を得ているという現実があります。一方で、日本の地方自治体が主催する公営ギャンブルでは、70%の還元率で本来ならば30%もの分配が地方自治体に入るにも関わらず、経常的な赤字運営が長年続いている事例が散見されるのです。
地方公共団体における公営ギャンブルの本来の意義は、その利益を一般会計に繰り入れることによって、地方財源を安定化させることです。事実、戦後から長年にわたっては、ほとんどすべての公営ギャンブルを行っている地域において毎年莫大な一般会計に対する繰り入れを行い続けてきていました。それが、地域の発展に対する投資や住民福祉の向上に使われてきたのです。
戦後まもなくの娯楽も少なかった時期が過ぎ去り、1980年代以降は家庭においても、社会全体においても様々な娯楽が多様化し、普及していくなかで、公営ギャンブルの娯楽における相対的位置づけが低下していきました。戦後復興期における自治体財政を支え続けてきた公営ギャンブルは2000年を過ぎるあたりからは、「財政の安定化」どころか、「負の遺産」となる地域もでてきました。これまで溜め込んできた「基金」を食いつぶし、一般財源に繰り入れるどころか貴重な税金や人材を無駄に浪費しかねない状況にもなってきたのです。
松阪市においても、20年近くのあいだ、一般財源に繰り入れをすることができず、単年度会計において赤字が発生し、これまで溜め込んできた大切な「基金(市民の福祉にも使えるお金です!)」を使い続けてきたのです。
市長に就任直後から競輪事業の再生に向けて、プロジェクトチームを行政内部で創りましたが、結果として抜本的な解決策を出すことができず、市民や議会の間からは「競輪廃止論」が強くなってきました。民間手法を用いた再生計画も2回にわたって議会でほぼ中身の議論がされないままに否決をされて、最後に期待を託したのは「競輪事業の民営化」という選択肢でした。当然のようにこれまで同様そのような不安定な提案を議会は受け入れるはずはありませんでした。
そこで、松阪市では行政側も民間事業者側も1つの覚悟を決めました。「公営ギャンブルで利益が出た場合は民間の利益にする」そのかわり、不利益がでたときには、民間事業者がすべて不利益を背負う」というものでした。簡単にいえば、「競輪事業の実質的民営化」ということです。これまでのように行政が経営の主体として運営の指揮をとり、一部の事業だけ民間委託するというものではなく、公営競技のすべての業務の指揮を民間事業者に託し、利益の半分を民間事業者に渡すというものでした。そのかわり、民営化の性質上「赤字」がでた場合にはその全額を松阪市に支払うという民間側のリスクも前提にしたのです。
公営ギャンブル」は本来、「公営」だからこそ認められているのであり、「民間」が事業主導することでそれに応じた利益配分がされ、そしてそのつけを民間が負うのであるならば、それは完全な「民営化」といえます。当然、関係官庁や競輪に関わる他の自治体からも様々な反発や抵抗がありました。
自治体において、これまでに慣例がないような新しい事業を進めようとすると、様々な「ストップ」がかかります。民営化というプロセスを進めようとすると、議会からは「よく理解できないけどなんか危険な気がするから認められない」「とにかく、公で行うべきものを民間に任せることそのものが許されない」、国の関連機関に相談すると、「前例がないので判断できない」「良いとも悪いともいえないが、やる必要もないのではないか」などという返事がきます。
自治体職員は素直なので、普段はやや小馬鹿にしている議員様やお国様からいわれると、説明責任を果たす「面倒臭さ」から逃れるために、「じゃあ違う方法にしよう」という結論になってしまうのです。本当は、「民営化」そのものにリスクがあるのではなくて、「公的責任」を明確に担保するシステムをなしにして「効率化」や「一部の団体業界とのしがらみ」のみを根拠にして行う「無責任な民営化」がリスクを伴い、問題視されなくてはならないのです。
地方自治体の多くの業務や施設管理は民営化することにより、「財政の効率化」をおこなうだけではなく、「市民サービスの大幅な向上」に繋げることもできます。その民営化に向けたプロセスを議員や一部の有識者だけで決定していくのではなく、「市民公開の場」において、関係事業者なども交えて議論し、契約に向けた「公開プロポーザル」「公開コンペ」などをおこなっていくことで透明性と説明責任を果たしていくことができるのです。そして、そのなかで将来に向けた、民間の知恵とノウハウを用いながら「公的責任」が負えるシステムを行政に内部化していくということがこれからの時代に求められる「官民連携」だと思っております。
現在、ジャパンシステムを事務局とした「自治体コンシェルジュ協議会」を創り、淑徳大学という学術機関、JTBやNTT東日本、ディップなどという多様なノウハウを持つ民間企業が連携をして、全国の自治体が現在おこなっている、またはこれから生み出そうとする事業の受け皿となれるようなプラットホームの構築を目指しております。「新しい公」は単に自治体財政の厳しさを言い訳にした効率性の追求を民間に丸投げすることではなく、自治体が持つ「市民の幸せに向けた公共性」と各個別企業が持つ「優位性のある事業ノウハウ」を組み合わせることで、最終目標は「今と未来の人の幸せを創ること」に尽きると思っております。
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