コラム
公共施設マネジメントの現状と課題について(1)公会計における資産の性格
2018.03.22
ジャパンシステム株式会社
ソリューションストラテジスト 松村俊英
はじめに
現在、総務省は、全国の自治体に、「公共施設等総合管理計画」の策定と「新地方公会計」の導入を求めている。その結果、日本においては、 公共施設に関する保全、利用状況、そして費用に関するデータの蓄積が進行しつつある。総務省は、全国の自治体に対して、公共施設等総合管理計画の策定を、2016年度末までに求めた。日本では、人口減少・少子化等により、今後公共施設の利用需要が、変化・減少していくことが見込まれている。そして、過去に建設された公共施設が、今後、大量に更新時期を迎える。しかし、地方公共団体の財政は、厳しい状況が続くことが見込まれている。
そこで、1)公共施設の総量を把握すること。2)長期的視点をもって更新・統廃合・長寿命化等の計画を策定すること。3)財政負担を軽減・平準化すること。が求められた。 しかしながら、公表された計画は、ほとんどが、全ての施設を将来もずっと保有し続ける前提で、更新費用を算出している。また、ほとんどの自治体が、公共施設から生み出される価値の測定を行っていない。また、施設更新の優先順位付けについても、十分な議論を行っているとは言い難い。
一方、新地方公会計については、既に、全国の自治体は、2008年度決算分から財務書類の公表を行っている。しかし、公共施設の評価では、取得原価が採用されている。これでは、適切に資産価値を評価しているとは言い難い。また、減価償却費の計算に関しても、元になる耐用年数の設定が難しい。
公共施設は、例え役に立っていなくても、その維持費を、施設の存続する限り払い続けなければならない。その維持は、負債的な側面を持っていると考えるのでないか。なぜなら、その施設を保有し続ける以上、ずっと、納税者が維持費の支払いを強制されるからである。ここで、将来にわたる税収拘束額(政策コスト)を負債と考えれば、公共施設のバランスシートは大幅な債務超過となる。
公会計における資産の性格
固定資産台帳に整理された学校や公民館等の建物は、資産と呼ばれて、公会計の貸借対照表(バランスシート)上に計上されている。ここで、資産とはどういう定義になっているのであろうか。総務省の「今後の新地方公会計の推進に関する研究会報告書」(平成26年4月)によれば、資産とは、「過去の事象の結果として、特定の会計主体が支配するものであって、将来の経済的便益が当該会計主体に流入すると期待される資源、または当該会計主体の目的に直接もしくは間接的に資する潜在的なサービス提供能力を伴うものをいう」という事になっている。
要するに、1)持っているとキャッシュが流入するか、もしくは、売却可能性がある。2)キャッシュは流入しないが、行政サービス提供能力を持っているもの。という事であろう。民間企業等が持つ資産は、1)の要件しかなく、逆に、地方公共団体が持つ多くの資産は、2)の要件しか持っていない物が多いであろう。その結果、民間企業の貸借対照表を見るのと同様に、地方公共団体のそれを眺めた場合、混乱が生じる可能性がある。
すなわち、貸借対照表において、大幅な「資産超過」になっているとしても、それは、過去世代が支払ってくれた現金が、物の形になって積み上がっていることを示しているに過ぎない。すなわち、決して換金性のある物を大量に保有している、ということでは無いということである。そこで、道路・橋梁等のインフラ資産に加えて、事業用資産と呼ばれる学校や公民館等の建物を、あえて「売却価値ゼロ」と見做すならば、貸借対照表は大幅な債務超過に陥っていると考えることも出来る。
更に保守的に考えるならば、公民館や図書館等の施設を保有すれば、結果として、それらの施設維持の為に、毎年「事業費」として、支出が行われる。これらの事業費は、建物そのものの維持や更新に必要とされる「修繕費」や「更新費」と、その施設を使って営まれる「行政サービス」が含まれる。
公共において施設等は、一度作られると簡単に売却や除却される事が、民間に比べて起こりにくいと考えられる。これには、様々な原因が考えられようが、兎も角、一度施設が出来ると、その「耐用年数」に従って、ずっと生き長らえる。その時、建物だけが生き長らえるのではなく、その施設を使って営まれる「事業」も、一緒に生き長らえる傾向が高いのではないだろうか。
その結果、建物が存在する事で生じる将来のキャッシュ・アウトフローは、将来の税収を現時点で、かなり確実に「拘束」する事がわかる。この様な、現時点において、かなりの「精度」を持って予測できる、将来のキャッシュ・アウトフローは、「負債」と認識すべきものであるかも知れない。だとすれば、その結果、貸借対照表は更に大幅な債務超過となり、将来に亘って各世代がこの債務をどの様に「平等に」負担していくのか、その方針決定が必要になる。
次回は「公共施設マネジメントと公会計の接点」と「施設保有コスト」について記述する。