コラム

公共施設マネジメントコラム②「公共施設の襷(たすき)を繋ぐ」

2016.02.16

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー 池澤 龍三

前号では、いま全国の自治体が一斉に策定に取り掛かっている「公共施設等総合管理計画」の目的や、その解決方法の一つとして2層のエリアマネジメントの考え方について記述させていただいた。

実は、そうこうしている間に、全国の自治体においては次なる計画策定のミッションが国から下っているのである。

その一つが「まち・ひと・しごと創生総合戦略」である。これは平成26年11月28日に公布された「まち・ひと・しごと創生法」に基づくもので、①東京一極集中の是正、②若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、③地域の特性に即した地域課題の解決という3つの基本的視点を持っていると言われている。要は、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持しようというものである。いま全国の自治体(首長)が競って「おらが町、村」の人口増加を一斉に謳う背景には、この戦略に整合させようという流れがあるように思う。

さらにもう一つが、将来的な日本のまちの形を都市計画サイドから考えようという都市再生特別措置法に基づく「立地適正化計画」がある。これは、財政状況の悪化や施設の老朽化等を背景として、将来のまちのあり方を見据えた公共施設の再配置や公的不動産を活用した民間機能の誘導を進めようというものである。すなわち、医療・福祉施設、商業施設や住居等がまとまって立地し、高齢者をはじめとする住民が公共交通によりこれらの生活利便施設等にアクセスできるなど、福祉や交通なども含めて都市全体の構造を見直し、『コンパクトシティ・プラス・ネットワーク』の考え方で進めていこうというものである。

ここまで読んでお気づきのように、これらの計画は概ね同じような方向性を持っており、庁内で統一的に議論されるべきものであることは明白である。しかしながら、現実的には、「公共施設等総合管理計画」は管財系部署が、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は企画系部署が、「立地適正化計画」は都市計画系部署がそれぞれ所管することが多いのが自治体というものである。まさに合成の誤謬(ごびゅう)である。お互いの計画が可も無く不可も無い表現に終始する所以はここにある。それは例えば、飲食店に準えて言えば、メニュー表のようなものではないだろうか。その自治体が提供する行政サービスのメニュー一覧である。

自治体という名の飲食店におけるそのメニュー表は、全国どこでもほぼ同じ「お品書き」となっているのが現状である。まさに、人口増加、企業立地、安全安心という三大要素のオンパレードとなっている。まるで、ハンバーグ定食、カレーライス、オムライスは外せないと言った様相である。これがいけないというのではなく、問題なのは、地域の独自性と言いながら、チェーン展開しているファミレスのメニューのような経営戦略となっている点にある。本来はいかに他市には無いハンバーグをお客に食ってもらい、上手いと言ってもらうかが課題のはずである。

また、これらの計画に若い世代の意見というものが反映されているケースは殆ど見当たらない。少子・高齢化社会、さらに大事な生産年齢人口の減少という過去にない大きな社会構造変化の中にあって、20代から50代のいわゆる現役世代層を中心に、その声をもっと反映させていかなくてはならない時代に入ったと言えるのではないだろうか。先進的な自治体においては、公共施設のあり方を考えるワークショップに小学生も参加するようになってきている。

今年で92回目を迎えた東京箱根間往復大学駅伝競走(いわゆる箱根駅伝)は、青山学院大学が10時間53分25秒で襷を繋ぎ、見事2年連続2度目の総合優勝を果たした。特に今年は一人の選手に頼るのではなく、各区間の選手全員がヒーローになる走りを見せ、襷を繋いでの完全優勝であった。

公共施設は、官庁が所有している資産と思われがちだが、それは大きな間違いである。例えば、市有施設とは、市民が共有して保有している資産である。言うなれば、○○市という大きな家族全体で持っている資産である。

一般家庭であれば、親から子へ、子から孫へと、日常の団欒の中で自然に「この土地や屋敷をどうするか?」の話し合いも持たれるであろうが、この大きな家族ではなかなかそうはいかない。ましてやこれだけ膨れ上がった資産の引き継ぎなど、まともに行った経験もない。だからこそ、各世代間の引き継ぎを早く始めなければならないのではないだろうか。公共施設マネジメントとは、まさにこの大きな家族の資産の引き継ぎ作業、襷を繋ぐ作業そのものではないだろうか。その時に大事なことは、襷を繋いだ次の走者がいかに走りやすい環境を作れるかである。それを皆が理解し、力を出し合う。今回の箱根駅伝からは、ふとそんなことを思い知らされた。

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