コラム
公共施設マネジメントコラム④「公共施設マネジメントと地方自治の仕組み」
2016.04.13
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー 池澤 龍三
前回、公共施設マネジメントとは、住民全体という大きな家族としての資産の引き継ぎ作業そのものであることを申し上げた。しかしながら、その作業は少子・高齢化社会の影響もあって、非常に難しい課題となっているのが現状である。そこで、今回は、この引き継ぎ作業をどのように進めて行かなくてはならないのか、地方自治の仕組みに立ち返り考え直してみたいと思う。「おカミの体質」だからとか、「公務員は縦割りだから」と、事業が上手くいかない理由を安易な理屈で片付けてしまいそうになるが、果たして実際にそうなのか、そもそもそういう言い方で本質的な問題解決になっているのか、考え直すべきと考えているからである。
公共施設マネジメントを実施するためには、行政のトップである首長だけの意思決定で実行されるわけではなく、地方自治体が設置した地方議会による予算の審議・承認や、そもそも主権者である住民の理解や合意がなければ決して事業は実施することができない仕組みとなっている。すなわち、公共施設マネジメントの実施は、【住民】・【議会】・【行政】の適切な三者関係のもとに運営・実行されるべき仕組みとなっていることを先ずは理解しなければならない。
私たち住民は、行政のトップである首長を直接選挙で選ぶと同時に、議会の構成員である議員も直接選挙で選んでいる。すなわち、住民は両方を選ぶ権利を持っており、双方で補う合う議会制民主主義による二元代表制を採用しているのである。
さらに、地方自治体においては、住民は、直接その首長や議員が適切ではないと判断した場合、地方自治法に定められた一定の規定に基づいて、解職や解散を求めることができる仕組みも持っている。いわゆるリコールである。これは、先の議会制民主主義だけに頼るのではなく、直接民主主義の発想も組み込んだものとも言える。ここが国と地方の大きな仕組みの違いである。すなわち、我々国民は内閣総理大臣を直接選挙で選ぶことができないのである。アメリカのような大統領制ではないのである。
繰り返すが、地方では首長を直接選ぶことができる。言い換えれば、地方自治体において公共施設マネジメントを実施するということは、地域独自の政策を首長や議会の承認等により実施することは十分可能であり、住民自らの権利と責任のもと、地方のあり方を定めていくことができるということを示している。
これは、地方自治法第2条第14項において、「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と明記されていることにも表れている。公共施設マネジメントは地方自治体に求められる責務であり、住民は公共施設マネジメントを地方自治体に負託していると言えるのかもしれない。
地方の時代と言われて久しく、また現代は地方創生の議論が盛んに各地域で行われているが、公共施設マネジメントについて言えば、地方自治体が保有する住民共有の資産をどう維持していくか、あるいは、どう将来を見据えてコンバージョンし利活用していくかといった判断は、住民自身の意思と権利、そして責任において行うということを示していると言える。したがって、その全体のマネジメントの実行は、先の住民、議会、行政の適切な三者関係において実施されるべきであり、そこに適切なガバナンスが発生すると言える。
ドラッガーはマネジャーとは「組織の成果に責任を持つ者」と言っています。すなわち、マネジャーとは、一つの事業に関して、その大きな方向性を示し、あるいはこれまでの方向性を大きく転換する権限を有する反面、その組織全体としての成果について責任を負う者と考えられます。これを地方自治体において考えれば、この組織の成果に責任を持つ者とは、選挙という法律的行為に基づき住民から選出された首長ただ一人であるとも言えるのである。
一方で選挙で選ばれた首長も、その成果達成のための各事業に関し、その行政上の事務手続きや法律的根拠を全て精緻に理解し事務を執行しているわけではない。それは現実的に不可能である。それを可能とする者は、行政手続きや各種機関との調整能力に長けた地方自治体の職員しかいないのである。すなわち、首長がマネジャーであれば、地方自治体職員は個々の具体的事務事業を執行するプロデューサーと言えるではないだろうか。ここで敢えてコーディネーターと表現しなかったのは、人口減少、少子・高齢化社会というこれまでとは全く逆のベクトルに立ち向かう日本において、地方自治体職員に求められるスキルは、あらゆる条件を調整、コーディネートする能力ではなく、創造力、実行力、突破力を持って事業をプロデュースしていく能力だからである。まさに、こうしたマネジャーとプロデューサーの存在があってこそ、公共施設マネジメントは成功へと導かれるのである。そしてそのプロデューサーを対等なパートナーとしてサポートするのが本来の官民連携の仕組みと言えるのではないだろうか。
関連コラム
- 公共施設マネジメントコラム①「日本人は基本的にエリアマネジメント思考」
- 公共施設マネジメントコラム②「公共施設の襷(たすき)を繋ぐ」
- 公共施設マネジメントコラム③「次世代に残すもの」
- 公共施設マネジメントコラム⑤「熊本地震から学ぶべき教訓」
- 公共施設マネジメントコラム⑥「『こどもの声は騒音と言われる世の中』からのシフトチェンジ」
- 公共施設マネジメントコラム⑦「ネガティブ評価からポジティブ評価へ」
- 公共施設マネジメントコラム⑧「18歳選挙権と公共施設マネジメント」
- 公共施設マネジメントコラム⑨「世代間の横串」
- 公共施設マネジメントコラム⑩「右脳と左脳と公共施設マネジメント」
- 公共施設マネジメントコラム⑪「1周回って、公共施設マネジメント」
- 公共施設マネジメントコラム⑫「まちづくりとは、人が動くこと」
- 公共施設マネジメントコラム⑬ 公共施設の今とこれからを俯瞰する