コラム
公共施設マネジメントコラム⑤「熊本地震から学ぶべき教訓」
2016.04.20
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー 池澤 龍三
平成28年(2016年)4月14日夜に熊本県熊本地方でマグニチュード(M)6.5、最大震度7の「熊本地震」が発生した。当初本震と考えられていたこの夜の地震は、その後16日未明に発生したM7.3の地震を受け、前震と位置付けが変更され、16日未明の地震が本震であったと訂正されるに至っている。本執筆を行っている4月18日現在においても、現地では震度4を超える大きな地震が絶え間なく続き、地震の範囲は大分県中部地方にまで拡がるとともに、死者の数も40人を超えるなど、これまでの現役世代としては経験したことのない震災に直面している。
先ずは、本震災によりお亡くなりなられた方々にお悔やみ申し上げるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げる次第である。
現地の取材テレビの映像からは、倒壊した建物や崩壊した台地や土木インフラ、24時間休むことのない避難所生活の光景が映し出されている。
ここで、公共施設マネジメントに携わる私としては、いつも感じることがある。それは、以前にもふれた2層のエリアマネジメントの重要性である。
端的に申し上げれば、今回のような大規模災害に直面した際に、周辺地域(自治体等)からの具体的支援が行われない(非常に難しい)最初の3日間を、地域住民が何とか自力で無事に過ごす「場」をいかに現実的かつ具体的に確保できるかが重要なのである。
人は非日常的な場面に遭遇すればするほど、生まれ育った、見慣れた環境・風景にかえって居たくなる、しがみつきたくなるのかもしれないが、自らの地が被災するということは、それをも許さない状況を迎えるということなのである。事実、今回の熊本地方においても、被災者を治療する病院施設や医師・スタッフも同時に被災しており、そのために長期戦には対応できなくなり、周辺の自治体の医療機関に搬送を余儀なくされている現実がある。
一方で、簡単にはその地を離れられない事情も人にはそれぞれある。また、嫌な情報ではあるが、現実的には空き家になった家屋に浸入し物を盗む輩も現れるのである。
しかし、こうした状況を差し引いても、人の命には代えられないと私は思うのである。長期戦になればなるほど、身体的にも精神的にも人への負のダメージは大きくなっていく。プライバシーもなく体育館の大空間に寝なければならない現実や、女性や子供特有のケアがなされない状態での長期戦は思いの外耐え難いものだと思う。
こうした様々な状況を鑑みるに、一次避難所とは別に、最初の3日間を過ぎて長期戦になった時に避難する二次的な避難所である「場」を、如何に持続可能的に確保できるかが肝要であると思うのである。そのためには、被災した一つの自治体内だけで考えるのではなく、逆に広域的な視点から考える必要がある。この発想は、かつての自治体間の合併の議論等ではなく、自治体が提供する機能(サービス)のアライアンス(共同・連携)と言えるのではないだろうか。何も合併話で首長の数が減らされるという次元の話ではないのである。
もう少し分かり易く言えば、災害時に3日間を過ごすということは、平常時に置き換えて考えれば、コミュニティの核に成り得る条件を満たしているということであり、さらに格好良く言えば、コミュニティの継続性(CCP:Community continuity planning)という視点から非常に重要な施設と言えるのではないだろうか。そうした施設は、所謂、様々な機能の集約化・複合化が可能な施設とも言えるのであり、ある適度狭義な範囲内でのエリアマネジメントを構成していると言えるものである。
一方、3日間を超えて活躍する機能とは、まさに行政としては究極的に求められる社会経済活動の継続性、すなわち、長期間に渡る行政機能の継続性(BCP:Business continuity planning)ということではないだろうか。その機能こそ、先に述べた自治体(行政界)を超えて成さねばならない業であり、広域的エリアマネジメントと言えるのではないだろうか。そこを平常時に置き換えて考えれば、ICT(情報通信技術)や道路ネットワーク(交通ネットワーク含む)による広域化ということではないだろうか。
現在、災害とは別に地方創生や立地適正化計画、そして公共施設等総合管理計画等々の計画論が巷を騒がしているが、何がどう変わろうとも地域住民との対話の中で地域住民が外して来ないキーワードがある。それは、「コミュニティ」と「防災」である。
これまで、公共施設等総合管理計画の中では、施設用途ごとの方向性や統廃合計画を議論することが自治体の中では多かったと思うが、この議論のほかに、小さな範囲内に必ずあった方が良い施設(機能)と広域で持っていた方が良い施設(機能)を仕分けるという考え方、すなわち2層のエリアマネジメントの考え方を加えていくことが重要であると思うのである。
今回の大規模地震の教訓は、まさにここにあると思う。
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