コラム

公共施設マネジメントコラム⑫「まちづくりとは、人が動くこと」

2016.11.16

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー 池澤 龍三

突然であるが、私には一つの夢がある。それは、小・中・高の学校がまちの中の公園となることである。あまりに唐突な言い方過ぎてご理解いただけないかもしれないが、イメージとしては、大学のキャンパスのようなものである。皆さんもご承知のように、大学のキャンパス内には、各学部の校舎、図書館、レストラン、カフェ、本屋、美容室、コンビニ等々多様な機能が配置されている。しかしながら、そこを歩いていて、ごちゃごちゃした感じは全く受けない。一つの広大な公園の中を回遊性を持って各建物が配置され、木々の香りも、季節の風も自然に感じることができる。コンビニで買ったサンドイッチをベンチに座って食べることもできる。こんな空間が、身近な小・中・高の学校敷地内で実現されれば、なんと素敵なことだろうと考えるのである。

私がこんな幻想を抱くようになったのは、アメリカを訪れた時に出会ったある風景が強く影響している。私は、数年前、機会がありアメリカオレゴン州ポートランド大学に1週間ほど滞在したことがある。途中、自由時間があったので、私はポートランド市郊外にある、ケネディースクールという廃校となった小学校を一人訪ねてみた。1912年創設のその小学校は、廃校後、マックメナミンズという民間会社が買い取り、現在は宿泊施設等を持つ複合施設として再利用されていた。私が訪れた時、ちょうど中庭では、あるカップルの結婚式の二次会であろうパーティが開かれており、仲間たちが新郎新婦を祝福する姿が何とも微笑ましかったことを覚えている。その閑静な一戸建て住宅街の中に佇むこの建物は、外観もほぼ当時のままの姿を残しており、周辺環境によく溶け込んでいた。そこには高い塀もなくごく普通に公園のような空間がまちの一角に広がっており、その敷地の中に校舎をコンバージョン(用途変更)した宿泊・コミュニティ・レストラン等複合施設が佇んでいたのである。なんとも落ち着くのである。この感覚はポートランド全体に言えることかもしれないが、まち全体が大きな公園となっているように感じられるのである。40年かけて市民協働のまちをつくってきたポートランド。そこから醸し出される空気感は本物で、現実の社会に溶け込んでいる。その時に私が公共施設マネジメントについて直感的に感じたことは、こうした具体的なビジョンが描かれていないから画餅を超えられないのではないだろうかということである。住民と新たな公共のカタチを議論する前に、こうしたビジョンを共有することがより大切なのではないだろうかと。具体的な絵を共有することで初めて人は理解し合え、持続的な行動に繋がっていくのではないだろうかと感じたのである。

また、ポートランドのまちを歩いていると、大学の校舎が街中に点在していることもあり、いかにも大学のど真ん中をストリートカー(路面電車)が通過しているように見える。日本で言えば、学校の校庭のど真ん中をチンチン電車やコミュニティバスが走っているようなものである。まさに、学校を含めたまち全体が公園であり、そこを電車が走っているのである。

公共施設マネジメントの最終的な目的は「まちづくり」であると私は考えている。しかし、そのまちづくりとは何かと問われると、これがなかなか表現しづらいのである。そこをあえて一言で表現するとすれば、「人が動くことである」と私は考えている。

例えば、先程のポートランドの街並みから「人が動く」ということを考えてみると以下のようになる。

学校の中をチンチン電車やコミュニティバスが走っていれば、そこには地域の人々が自然に集まるようになり、集まる空間として簡単なバスターミナルが設置されることになるであろう。そうすれば、当たり前のようにそこにはコミュニティが発生することとなり、徐々にそのバスターミナルはこれまでの公民館に代わる新たなコミュニティ空間としての機能が芽生えはじめることとなる。さらには、災害時はそこは防災の一時避難所としての機能を持つようになり、これまで学校敷地の片隅に置かれていた防災倉庫の役割をも担うようになる。そして、その施設を管理運営するのは、行政ではなく官民連携の視点からの指定管理者とも考えられる。さらに、その指定管理者は、(仮)コンビニコミュニティ防災センターを経営するコンビニのオーナーであるかもしれない。こうした拠点を市民協働の視点から拡散させていくとどうなるであろうか。まさに、学校公園化によるまちづくりの全体構想へとストーリーは繋がっていくのである。

少々妄想が過ぎたようであるが、ここであらためて公共施設マネジメントを整理すると、「学校・公園・コミュニティ・防災・交通」という5つの重要なキーワードが浮かんでくる。この5つのキーワードを念頭に「人が動く」ことを創造していくことが、公共施設マネジメントの実行力に欠かせないのではないだろうか。皆様の頭の片隅に、この5つのキーワードを残しておいていただければ大変幸甚である。

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