コラム

地域医療の視点から(3)「看取る在宅医療」の土台を支える介護職を守るシステムづくりが不可欠

2018.09.26

ジャパンシステム株式会社
公共政策・行政改革ディレクター
しろひげ在宅診療所 院長
山中光茂

超高齢社会に向かい、次世代の持続可能な社会保障費のあり方と医療介護のシステムを考えなくてはならないこの時代に、政府として「病院から在宅へ」の流れをつくるために、在宅医療にかなり有利な診療報酬体系が創られています。その恩恵のもとで、勤務医の年収のなかでも最も平均年収が高いのは在宅医であるというデータもあり、そのもとで「にわか在宅医」も増えているという実態もあります。実質的に24時間対応していない在宅医療機関や困るとすぐに救急搬送する医師も少なくなく、政府の方針を「利用」して「儲ける在宅」を進めているフランチャイズ医療機関も増えてきているのです。「地域包括ケア」をうたい、病院から在宅への移行体制を「形式的」に進めながら、「在宅看取り」が数字としても全く進んでいないのは「にわか在宅」「金儲け在宅医療」の推進によるものの弊害ともいえます。

そのような現状において、「在宅看取り」ができる実質的な環境を整えるうえで重要なのは「医療」のあり方もまだまだ考慮する必要がありますが、それ以上に「介護環境」の整備を進めていかなくてはなりません。まっとうな在宅医療の広がりが仮に進んだとしても、医師はひと月に数回の決して長くない時間をあくまで「医療的ケア」と「家族や本人の精神的ケア」ができるにすぎないのです。患者さんにとっての「生活」や「日々の幸せ」を支えることは、医療や看護だけではなく、日々の「介護サービス」の徹底により初めて在宅でのサポートが可能となり、「お看取り」まで医療的ケアを続けるうえでも大きな前提となるのです。

一人暮らしの末期がん患者や認知症が進んだ患者などは「医療」だけで生きていくことはできません。経済環境にも家庭環境にも病状にも決して恵まれたとはいえない患者の心と生活を支えるのは、介護分野の役割、特にヘルパーの役割が不可欠であるといえます。どのような生活環境の患者に対しても、部屋の清掃、食事の準備や介助、排便・排尿の処理、入浴介助などすべてをほとんど一人でサポートをし続けます。糞尿まみれの部屋の清掃や言うことを聞かない介護抵抗がある認知症患者への対応などがあるにも関わらず、高い給料をもらう在宅医療医への恵まれた制度設計と比べて、あまりにも低い待遇で厳しい環境のなかでの勤務を強いられている介護界の現実があるのです。年数や経験を重ねても、糞尿まみれの環境で、暑い日も寒い日も働き続けても300万円前後の年収で、本当に心を込めた介護に人生を投資できる人材が育つでしょうか?実際には現場においてお金ではなく、「純粋な人への思い」で誠実な仕事をしている方々がたくさんいます。誰もが迎える最期に向けての人の「いのちと幸せ」を支える重要な仕事であるからこそ、しっかりと人材を育て、報酬を担保して人生をかけるに値する誇りをもてる仕事にしてあげるシステムを創ることが不可欠だといえます。政治のなかで、財政の配分は医療業界や製薬業界の声の大きな部門だけに配慮することが多くなっています。人のいのちや幸せの「現実」に携わる「地道な生活を支える分野」は声が小さいのかもしれない、だからこそ、政治や行政はそのような分野にしっかりと投資し、配分していくべきだといえるのです。これからの時代の「当たり前の幸せ」や「日々の生活」を守っていくためにも。

ホームヘルパーの年収(年齢別)

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