コラム

業務のIT化を考えるコラム③組織の業務における「仕掛け」

2016.06.02

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
株式会社アトリス アーキテクチャー開発執行役員 長嶺 亮

前回までの話で、「流れ」の根底には「流れ」を発現させるための「仕掛け」があるはずであり、これは「流れ」とは異なる次元であるため、「流れ」の延長上に位置づけた「仕掛け」の議論は非合理であり、「仕掛け」は「仕掛け」として整理することの必要性について述べました。

今回は、組織の業務における「仕掛け」がどのようなものなのか、業務の定義を通じて、その「仕掛け」を構成する要素として抑えるべき対象が何であるか明らかにしようと思います。

組織の業務

組織が業務を管理するのは、その業務が滞り無く正確に遂行されているかを把握する為であったり、より効率的な業務の実現に向けて管理された情報を利活用する為であったりします。

では、そのためには業務の何を管理すれば良いのでしょうか?業務に従事している実務担当者、実務責任者、管理者の立場から見て、何をもって業務を遂行したと言える、あるいは評価できるのでしょうか?この視点から考察を進めます。

本コラムにおける業務の定義

私達は普段、所属する組織で業務を遂行する際、何となく、漫然と遂行している訳では無いはずです。業務を遂行する背景にはその業務上、何らかの「働きかけ」が必要であるからこそ行っている訳であり、必要である限りその「働きかけ」を継続します。逆に、その「働きかけ」が不要になれば、それをやめます。

業務を遂行するという事は、「働きかけ」(行為・行動)そのものが目的なのではなく、「働きかけ」が向かう先に「働きかけ」を必要とする何らかの業務的な「対象」が存在しているはずであり、その「対象」が「働きかけ」を必要としている限り「働きかけ」を行うと考えられます。すなわち、「対象」は「働きかけ」によって「働きかけ」を必要とする状態から「働きかけ」が不要になる状態へと状態が変わっていく存在であり、「働きかけ」が必要か否かを決める為に必要な情報を持っている存在であると考えられます。

業務を遂行すると言う事のイメージを【図-1】に示します。

【0.環境・組織】

環境とは、組織(業務の主体)と対峙するものではなく、組織をも包含しています。環境には、その組織の内外含めて、業務として扱い得る事象・現象が潜在しています。組織は、環境に潜在している事象・現象を社会にとって価値のある対象に変換し、その対価(必ずしも金銭的対価とは限らない)を得ることに存在意義があります。組織は環境から何らかの価値を産み出す主体です。

【1.業務対象の抽出】

組織が社会(環境)に価値を提供する為には、価値に変換する対象として環境に潜在する事象・現象を切り出して、切り出した対象をどのような状態に変えたいか(達成条件)を決める事で業務対象を顕在化させます。顕在化させた業務対象の事を「コア」と呼ぶ事にします。「コア」という呼び方には様々な業務的な働きかけ・行為が向かう中核的な存在という意味を込めています。環境から「コア」を抽出する行為自体も「働きかけ」の一つです。「コア」となり得る事象、現象を抽出する「働きかけ」によって「コア」が用意されます。

【2.業務対象に対する働きかけ】

組織は抽出されて顕在化された「コア」に対し、その状態を望ましい状態に変える為に「コア」に対して様々な業務的な「働きかけ」を行います。業務的な「働きかけ」の事を「イベント」と呼ぶことにします。

【3.業務の終了】

「コア」に対して様々な「イベント」を起こすことにより、「コア」の状態は変わり、コアの状態が終了可能な状態に達成したと判断されれば、その「コア」に対する業務は終了となり、以後、この終了した「コア」に対する「イベント」を起こす必要はなくなります。組織の業務をこのように捉え、業務を次のように定義します。

【業務の定義】

抽出した「コア」に対して「イベント」を起こす事で「コア」の状態を完了状態に移行する事。業務は、単独の人(部署)で業務の遂行を行う場合と、分業により多数の人(部署)で遂行する場合があります。

業務を管理するという事

業務の遂行状況を管理すると言う事は、顕在化された業務の「コア」に相当する情報と、遂行された業務の「イベント」に相当する情報、双方を関連付けて管理することに他なりません。

業務遂行担当者の視点からは、「コア」の状態がこうであるから、この「イベント」を起こす、または、この「イベント」を行った事によりこの「コア」が収束して完了した。だから今後はこの「コア」に対する「イベント」は不要になった、などという判断を根拠に業務に従事します。

業務責任者の視点からは、この「コア」に対する「イベント」が通常より多く発生しているのに、収束しない。だから、作戦を変えて異なる「イベント」を試してみよう、あるいは、「イベント」を遂行する担当者を変えてみよう、という判断を下します。

経営責任者の視点からはある「コア」が収束するまでにこれだけの「イベント」(=コストの根拠)を要したから、効率が良い、または悪いという経営判断の根拠として用います。

業務を管理するということは、組織の業務に携わる各層において、業務の「コア」の状態を把握し、判断を下しながら「コア」に対する「イベント」を遂行するということと言えます。

組織は業務を通じて何をしているか

このように業務を捉えると、組織が業務を遂行すると言う事は、組織は他者に対して何某かを提供する為(そして、その結果としてその対価を得る為)に、混沌とした環境から自身に必要な任意の部分を抜き出し、「コア」と「イベント」として体系立てて、その体系立てられた「コア」と「イベント」に沿って業務に従事することで環境を変えている事と言えます。

「業務の体系立て」=業務の「仕掛け」

業務の「仕掛け」とはまさに、組織が環境に対して、他者や自身にとって望ましい状態へ変える為に必要な「コア」と「イベント」で業務を体系立てて具現化した姿です。

業務の「仕掛け」は、業務を遂行する(流す)際の根底に存在する静的な概念でこの「仕掛け」を用意することで、結果として業務を流すことが出来るようになる、その為の概念です。

組織の業務の管理対象として存在する「コア」と「イベント」および、その関係性を俯瞰した形で、業務の「仕掛け」として図で表現したものを「業務俯瞰図」と呼ぶことにします。前回コラムの運転の例における地図に相当します。

業務の管理対象となる「コア」や「イベント」を静的に整理した「業務俯瞰図」を用意することにより初めて組織の業務について粒度を揃えた形で、「コア」や「イベント」に対する業務遂行上の「流れ」の議論、すなわち、業務プロセス、あるいは業務フローの議論を、異なるバックグラウンドを持つプロジェクトメンバーが一同に会して議論することが可能になります。

今回は業務の定義を通じて組織の業務の「仕掛け」について述べました。そして、この「仕掛け」を表現する図として「業務俯瞰図」について触れましたが、その具体的な中身までは踏み込んではいません。

次回からは3回にわたり、組織の業務の「仕掛け」を可視化する「業務俯瞰図」とはどのようなものなのか、そして、「業務俯瞰図」上にどのような要素があれば組織の業務の「仕掛け」を表現できるのかについて見ていこうと思います。

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