コラム
業務のIT化を考えるコラム⑥業務俯瞰図上に登場する各要素 その2(業務管理対象間の関係性)
2017.01.06
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
株式会社アトリス アーキテクチャー開発執行役員 長嶺 亮
前回は、業務俯瞰図上に登場する業務管理対象としての存在を表す要素である「箱」には、タイプとして1種類の「コア」のタイプと2種類の「イベント」のタイプがあり、計3種類の業務の管理対象としての存在タイプがあることを見てきました。
今回はその存在する管理対象(箱)間の関係性を表す「矢印」についてのタイプについて見ていきます。
なお、業務俯瞰図上における矢印の先は、関係性の元となる箱を指します。生成する順序関係としてみると、感覚的に矢印の向きが反対と感じるかもしれません。矢印の先が存在するからこそ矢印の根元の「箱」との関係性が成り立つという意味で捉えてください。
業務俯瞰図上の矢印(業務管理対象間の関係性)の種類
矢印は、業務の遂行に伴う業務対象の存在の発生パターンや、存在の紐付けを表します。この関係の違いにより異なる矢印を用います。
存在する業務管理対象の関係性を表す矢印には、存在の発生パターンの違いに応じた、「導出」、「展開」、「更新」および、存在の紐付けを表す、「参照」の4種類の関係があります。さらに、関係性の矢印の先と元の箱の組合せにより6つのタイプに分けています。
「導出」の関係
「導出」の関係は、「イベント」間においてのみ成立する関係です。業務上の指示(イベント)と、その指示に対する実績(イベント)の関係のように業務の管理上、「コア」に対する業務が当初の指示通りに遂行できたかを意識する必要があるようなケースで、二つの「イベント」を対で管理する対象の間に成り立つ関係です。
収納業務を例にすると、「請求行為」(イベント)に対する「収納行為」(イベント)の関係です。(【図-10】)
請求に対しては収納される事が期待されますが、請求の際に期待した通りに収納が実施されるとは限りません。そもそも収納されない場合もあり得ますし、収納額が請求額と異なる場合もあり得ます。どの請求に対してどの収納がどのような形で実施されたか、双方を対で管理する必要があります。「請求行為」の存在を前提として「収納行為」が導出されます。「請求行為」が導出元となり、導出される側の「収納行為」から導出元を矢印で指して表現します。
また、導出元から導出先が作成された場合、導出先が作成された事で、導出元の「イベント」の状態が変わります(導出先が導出元を更新)。このケースですと、収納行為が作成されることで、請求行為は収納済みと状態が更新されます(後に説明する「更新」の関係)。
「展開」の関係
「展開」の関係は存在し得る管理対象が生じた事をきっかけとして、そのことと同時に、まだ存在していない別の管理対象を新たに発生できる関係です。なお、展開の関係では、展開元の情報と、展開ルール、業務規約等があれば、それらを元に展開先が機械的に決まる関係であるという点で、「導出関係」とは異なります。
「イベント」から「コア」を展開する関係、「イベント」から別の「イベント」を展開する関係があります。
展開の例として、調定業務の例で、「調定作成」(イベント)から「調定」(コア)と「調定伺」(イベント)を展開する例があります(【図-11】)。「調定作成」(イベント)の行為によって作られた「調定」(コア)に対する「調定伺い」(イベント)を立てる行為です。
【図-11】イベントからコアと別のイベントを展開する関係
このように、「イベント」の生成をきっかけとして同時に別の管理対象(「イベント」および「コア」)を生成する関係を「展開」の関係と呼びます。
「更新」の関係
「更新」の関係は、存在し得る管理対象が生じた事をきっかけとして、既に存在している別の管理対象の状態を変える関係です。(「更新」はある「イベント」をきっかけとして、「既に存在している対象」に対して影響を及ぼすのに対して、「展開」はまだ存在していない対象を生成するという違いがあります。)
「イベント」の発生により「コア」を更新する関係、「イベント」の発生により導出元の「イベント」を更新する関係があります。
先に取り上げた「導出」の関係(イベント間の導出)の際には必ず発生する関係です。
ここでも、収納業務を例に取り上げると、既に存在している「調定」(コア)に対して、「請求行為」(イベント)を起こします。「請求行為」を起こすことにより、「調定」のステータスは「調定済み」から「請求済み」に変わります。
次に既に存在する「請求行為」(イベント)から「収納行為」(イベント)を導出します。(先に取り上げた【図-10】の関係)こうすることで、導出元となる「請求行為」(イベント)は「収納済み」というステータスに変わります。そして同時に、「調定」(コア)の方は、「請求済み」から「収納済み」にステータスが変わります。
これを図で表現したものが【図-12】です。「収納行為」(イベント)の生成をきっかけとして「請求行為」(イベント)と「調定」(コア)のステータスが更新される関係として表現しています。
【図-12】イベントがコアや他のイベントのステータスを更新する関係
「参照」の関係
「参照」の関係は存在し得る管理対象間の紐付けの関係です。「イベント」と「コア」の間において成立し得る関係です。
「イベント」が「コア」を参照する関係があります。
「調定」を作成する業務を例に取り上げます。まだ存在しない「調定」を作成する際は、作成の行為すなわち、「調定作成」(イベント)が「歳入予算」のどの明細(「歳入予算明細」)に対する調定なのかを関連付けて作成します。
もう一例として、「調定」に対する「請求行為」(イベント)を起こす業務を例に取り上げます。「請求行為」(イベント)を作成する際は、請求対象となる「調定」と紐づける必要があります。この関係性を図で表現すると、「請求行為」(イベント)が請求対象となる「調定」(コア)を参照する関係になります。これらのことを図で表現したものが【図-13】です。
【図-13】イベントがコアを参照する関係
「イベント」を生成する際に、関連付ける必要のある「コア」が存在する場合にそれらの関係性を参照関係として紐づけます。
業務管理対象間の関係性については、「導出」、「展開」、「更新」、「参照」の4種類の関係について例を交えながら説明を行いました。そして、この4種類の関係性について、矢印の先と元の箱の種類(「コア」と「イベント」)に応じて、更に6タイプの関係性として【表-2】にまとめます。
【表-2】 存在する要素間の関係性のタイプ
この表をご覧頂ければお分かりの通り、「コア」は行為の結果として展開されたり、更新されたり、「イベント」を起こす際の(業務遂行時の)参照先になるという、受け身の存在です。
業務を遂行するという事は、能動的な「イベント」により、受動的な「コア」を顕在化させ、顕在化した「コア」に対して「イベント」を通じて状態を変えながら収束させて行く事と言えます。
業務俯瞰図に登場する要素のまとめ
前回と今回で、箱のタイプを整理した際にまとめた表【表-1】と矢印のタイプを整理した際にまとめた【表-2】の内容を元に、業務俯瞰図上に展開され得る箱と矢印の組合せのパターンをまとめた図が【図-14】です。
【図-14】 要素間とそれらの関係性の図のパターン
業種・業態を問わず、組織の業務はその組織で扱う業務上、管理対象となる3タイプの「存在」(1タイプの「コア」と2タイプの「イベント」)と、これら「存在」する管理対象間の6タイプの「関係性」に仕訳けて業務俯瞰図に整理する事が出来ます。すなわち、【図-14】に登場する6つのパターンの組合せで業務を表現する事が可能です。
業務俯瞰図の読み方
ここまで「収納業務」の一部について説明に用いた業務俯瞰図(【図-15】)を読み解いて、この業務のイメージを以下のように浮かび上がらせることが出来ます。
この組織には「収納」というコアを管理する業務があります。
「収納」(コア)は「収納行為」(イベント)または、「事後収納行為」(イベント)の2種類の「イベント」(業務の遂行結果)から展開される「コア」です。すなわち、「収納」の存在を顕在化させる為には、「収納行為」と「事後収納行為」という2種類の「イベント」を起こす業務がある事が分かります。
「収納」(コア)を展開する1つ目のイベントである「収納行為」(イベント)については、以下の解釈ができます。
「収納行為」(イベント)は「請求行為」(イベント)から導出されるイベントであり、「請求行為」(イベント)が存在することではじめて成り立つ業務的な行為です。
「収納行為」(イベント)を起こす事により、「請求行為」(イベント)の状態を更新すると同時に、「調定」(コア)の状態も更新し、そして同時に「収納」(コア)が展開されます。
「収納行為」(イベント)は「請求行為」(イベント)、「調定」(コア)が存在していないと発生し得ないイベントであり、「収納行為」(イベント)が発生することで、「請求行為」(イベント)、「調定」(コア)、「収納」(コア)の管理対象に影響を及ぼす事がわかります。
「収納」(コア)を展開する2つ目の「イベント」である「事後収納行為」については以下の解釈ができます。
「事後収納行為」(イベント)は単独で(任意に)発生させることが出来るイベントです。そして「事後収納行為」(イベント)を起こす事により、同時に「調定」(コア)と「収納」(コア)を展開します。
「事後収納行為」(イベント)は、その「イベント」を起こす事により「調定」(コア)「収納」(コア)を同時に展開する「イベント」である事がわかります。
前回と今回の2回にわたって、業務俯瞰図上に登場する要素の説明を行い、組織の業務の「仕掛け」を業務俯瞰図で表現する際には、2種類3タイプの存在(箱)と4種類、6タイプの関係性(矢印)の組合せで体系立てる事が出来ることを見てきました。
こうして組織の中の各業務の存在と関係性を整理して作成した業務俯瞰図をどのように活用できるかについては次回のコラムで見ていきます。