コラム
自治体における民間連携に関するコラム⑰ PPP/PFI優先的検討規程とPPP運用ガイドの意義
2018.10.16
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹
2016年10月に国土交通省・総務省・内閣府の連名で「PPP事業における官民対話・事業者選定プロセスに関する運用ガイド(以下「運用ガイド」という。)」が、国土交通省のホームページに掲載され、各自治体に通知された。2015年12月に内閣府からPPP/PFI優先的検討規程の策定が要請されてからわずか10か月後に、国から新たなPPP/PFI関連の重要な通知が出されたことは、立場によっても異なるだろうが、様々な捉え方をされているだろう。
先行して要請された優先的検討規程は、人口20万人以上の自治体を対象としてPFI法に基づくPFIに主眼を置き、10億円以上の総事業費または年間1億円以上の維持管理運営コストが必要となる事業を行う際には、従来手法に優先してPPP/PFIの導入可能性を検討し、採用しない場合には理由を公表するよう求めるものである。
2017年のPPP/PFIアクションプランの改正では、20万人未満の自治体にも拡大していくことが明記され、名目上は全ての自治体が大規模事業を行う際にPPP/PFIを検討することとなるわけである。しかし、優先的検討規程は「自治体の生き方」に変化をもたらし得る可能性はあるが、内閣府の示したモデルの範囲が大規模事業に限定されていることや、事業手法の選択を行政が基本構想段階で行うことを前提としていることなど、(従来型のサービス購入型を中心とした)PFI法に基づくPFIのプロセスを念頭にしており、柔軟性・実効性はそれほど高いものではない。
一方で運用ガイドは、ソフト事業も含めた様々な事業を対象に「PPPはオーダーメイド型である」としたうえで、民間事業者との対話が強調されている。この運用ガイドで特筆すべきは「①事業の発案段階から官民対話がプロセスにビルトインされていること、②優れた民間ノウハウを保護するための柔軟な事業者選択手法が明記されていること」の2点であろう。
「①発案段階からの官民対話」により、構想段階から市場性・事業採算性を考慮したリアリティのある検討が可能になる。行政が庁内・有識者会議・市民ワークショップ・議会からの要望・コンサルへの業務委託等を積み上げて策定する従来型の基本構想・基本構想では、「こうあったらいいな・多分こうなるだろう」といった夢物語・総花的な内容で、責任の所在も曖昧になってしまうリスクが内包される。夢とリアルでシビアな事業採算性のバランスが検討されず、補助金を含めて何らかの形で調達したイニシャルコストだけを頼りに莫大な公金投入がなされ、数年後に「こんなはずではなかった」結果になってしまっている事例は全国に多数存在する。また、このような計画策定を受託したコンサルタントも、発注者たる行政の夢物語をあたかも実現できるような報告書を作成し、(リアルな実態を記すと業務として行政に報告書が提出できないから、)夢の残骸を生み出すことに残念ながら加担してしまっている。
このような巨大開発の失敗事例は、発案段階でサウンディング型市場調査がされていれば、民間事業者から指摘される、あるいは市場が全く反応せず市場性がないことが明確になり、立ち止まるチャンスを得られたのではないだろうか。事業発案段階からの官民対話は、「そもそもの失敗」を防ぐための必要条件(決して十分条件ではない)であることから、これが運用ガイドに位置付けられた意義は大きい。
「②柔軟な事業者選択手法」では、上記のサウンディング型市場調査のほか、提案インセンティブ型、選抜・交渉型が位置付けられている。提案インセンティブ型は、サウンディング型市場調査の段階で優秀な提案をした事業者に、本公募における一定のインセンティブを付与するものであるが、「採用者が確実に有利になり、かつ、その後の事業者選定において他の事業者の参入意欲を削がない」という二枚舌(≒行政らしい表現)が配慮事項になっているため、筆者は検討段階から苦言を呈していたものの、手法の一つとして位置付けられたものである。このような過程から、本稿では提案インセンティブ型の解説を割愛する。
選抜・交渉型は、事例として我孫子市の民間サービス提案制度、流山市のFM施策の事業者提案制度を例示しているとおり、施設・サービス等を限定せずに民間事業者から幅広い提案を受け付け、採用された提案は詳細協議に付され、諸条件が整った場合に「提案者と随意契約」するものである。運用ガイドにおいては、様々な経緯があり「随意契約」ではなく「提案者と契約」という表現になっているが、意味するところは完全に随意契約の保証である。
そもそも随意契約は、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号において、「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」として認められているが、多くの自治体では以前の本コラムでも述べたように、過去のトラウマや先入観により必要以上に過敏になり、随意契約を躊躇してしまう。こうしたなかで、運用ガイドに地方自治法を所管する「総務省」のクレジットが入っていることは画期的である。
筆者も多少のアドバイスを行なった事例として、鳥取市では、2017年に「公共施設整備等におけるPPP導入検討指針」(以下、「PPP指針」という。)を策定・公表した。これは鳥取市の優先的検討規程に相当するが、総事業費などの事業規模を規定せず、あらゆるハコモノ整備を対象とすることが大きな特徴である。ハコモノ整備を検討する場合には、まず全国の類似事例でPPP/PFI手法を適用した事例があるかを調査し、前例があれば鳥取市でも導入できるよう検討すること、必要に応じてサウンディング型市場調査を行うことがフローとして明確に記載されている。もちろん、PPP/PFI手法を導入しない場合の結果公表も位置付けている。これに加えて、ソフト事業を中心に随意契約を保証した民間提案制度もPPP指針に盛り込んでおり、運用ガイドをベースにしながらも、それを超越した実践的な指針となっている。そして、2018年には提案制度を実践に移している。
ただし、鳥取市では既に公共施設マネジメントに真摯に取り組み、多角的な実践がなされ、庁舎の再整備では住民投票も含む大きな傷を負い、人口減少や少子・高齢化に全国に先駆け直面していることなど、困難な状況の中でいかに生き残るのか、リアルな「生きる手段」としてPPP指針を整備しており、他の自治体が額面だけ真似た指針を整備しても、実務が回らないであろうことは明白であるが、敢えて指摘しておく。
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