コラム
自治体における民間連携に関するコラム⑪ 公共施設マネジメントは「辛い」
2017.12.12
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹
公務員時代に公共施設マネジメントを担当し、これまで多くの自治体の担当者と接するなかで感じるのは、一部に「やらされてる感」のある職員がいるものの、多くの職員は面白がって仕事をしていることである。
公共施設マネジメントはその自治体で歴代、誰もやったことがない課題であり、効率的なやり方も確立されていない。自治体内部にはノウハウ・経験もなく、下手をすると最初は理解者を見つけることすら難しい。少しでも進めようとすれば必然的に「既得権益・前例踏襲・事なかれ・縦割り」といった行政らしい組織文化に直面し、上司・関係部署との軋轢や市民・議会との困難な調整にも向き合わなければならない。
公務員の制度上、このような嫌な思いをせずに誰かに委ね、先送りして目を背け事務分掌で規定された公務を粛々とこなせば(市民の生命・財産に直結する重大事故が発生しない限りは)給料が減ることもないし罰せられることもない。たぶん、平穏無事な日常を送りたいと志向する公務員にとっては最悪の辛い業務であろう。
しかし、冒頭に述べたとおり、なぜか公共施設マネジメントの分野では生き生きと、そして無茶をし続ける職員が全国に多く存在している。2010年2月に発足した自治体等FM連絡会議は地方開催を含めて年に2回開催されているが、毎回、会議そのものが夏フェスのような状態となっており、全国から猛者たちが(なかには有休を使って自費で)集結している。更に都道府県ごと(千葉県・岡山県・大阪府・福島県・広島県・宮崎県)や東京多摩地域での地域会、女性の担当者によるFM女性会という分科会も設置され、それぞれ年に数度の会議を開催している。この連絡会議のポイントは、一般財団法人建築保全センターが事務局機能を担っているものの、5~6の幹事自治体による自主企画・自主運営がなされていることである。生の声が行き交い、懇親会を含めてまさに「寝る間も惜しむ」場となっている。
こうした場を通じて有機的なネットワークを形成した担当者たちは、自らの組織では前述の様々な障壁と戦うこととなる。このような担当者たちは青臭いかもしれないが、辛い戦いの中でも明るい未来と自分の力を信じている(としか考えられない・・・)。
公共施設等総合管理計画では、総務省の策定要請に従い(民間の類似施設・サービスはそもそも視野に入れずに)行政が保有する公共施設のみにターゲットを絞り、「○○年間で総量○○%削減」という経済学的な数値目標がクローズアップされている。数値目標を達成するためにいかに施設総量やコストを削減するのか「市民生活の一部を削ること」が最重要視され、ほぼ唯一の手段とされている。一昔前の行財政改革と同様に、資産を負債と捉えたネガティブな発想が蔓延するなか、まじめに(リアリティや実績は別として)体裁の良い計画を公表した自治体がもてはやされている。
一連の行財政改革における各種事業の先送りや人員削減が、現在の行政の内向き志向・活力の低下の遠因になっていること、行政の一方的な都合と経営感覚の欠如で市民生活の一部を切り取ることが禁じ手であることは自治体の職員が身をもって体験し、できればすべきではないことは認識している。これと同様の流れを持つ総量削減(≒短絡的な公共施設マネジメント)は、ネガティブな業務として見られても仕方ない。
しかし、少しだけ発想を変えて公共施設をファシリティ≒資産・財産としてポジティブに捉えれば、道のりは険しいが自治体経営・まちづくりに活用できる方法が見つかるかもしれない。担当となった職員は、何十万㎡もの不動産を自治体経営・まちづくりに活用するチャンスを手にしている。民間企業でこれだけの不動産を自由に扱える機会は、そう簡単には訪れないだろう。そして、日々の業務で感じている疑問、ムダ・ムラ・ムリ、わずかな工夫で改善できる課題は無限にあるはずである。
自動販売機の貸付で数百万円の歳入確保、照明の間引き等のエネルギー管理の徹底で数千万円のコスト削減、未利用地の売却で数千万円の歳入確保、エントランスにキッズスペースを設置し利便性の向上・・・「今すぐにできるPPP/PFI」も、大量に抱えている経営資源を使えば山のようにある。もちろん、総量の縮減がほぼすべての自治体で避けて通れない道であることは間違いない。公共施設やインフラの課題は「今すぐにできるPPP/PFI」の蓄積だけで解決できるほど甘いものではないし、全体に及ぼす影響も小さいかもしれない。
そうしたことを承知しながらも、ポジティブな担当者は小さな成功体験の中に喜びを感じ、未来に向けての道筋を見出そうとしている。一般的な公務員の発想では奇人・変人扱いされてしまうかもしれないが、公務員以外から見たら公務員としてあるべき姿である。そして、当事者も特別なことをしているのではなく、「当たり前に自分ができることを一生懸命やっているだけ」であろう。
(一部は当初から安定を求めていたかもしれないが)「普通の」公務員も、やらない理由を延々と探す、新しいことを敬遠して昨日と同じ今日を過ごすために公務員になったわけではないはずだ。少しだけ発想をピュアに戻して、自分たちの可能性を信じることができれば、すぐに奇人・変人になれる。そして、組織が少しずつ前を向いていくことで、「つらい」を「からい」と読んで、激辛料理に挑む芸人のようなオイシイ機会にできるだろう。
最後に、こういった職員も人の子であり、心を悪魔に売ったわけでもないので、表面上はどんなにタフであっても「辛いものは辛い、嫌なものは嫌」なのである。くれぐれも、周囲は足を引っ張らないであげてほしい。
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