コラム
2020(令和2)年度予算を探る(2)総務省の概算要求:地方財政の見通し
2019.11.13
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
明治大学公共政策大学院教授 兼村高文
今シーズンの台風15、19号とその後の大雨で甚大な被害が発生しました。政府は激甚災害に指定し地方自治体への財政支援を行うようですが、異常ではなくなってきた異常気象に地方自治体の早急な対応が求められています。今回は「経済財政運営と改革の基本方針2019」(以下、「基本方針2019」)の地方財政関係の記述とともに総務省の来年度の概算要求および地方財政計画を見通します。
「基本方針2019」の地方財政関係
地方財政に関連する項目をピックアップしますと、第1章の「現下の日本経済」に続く第2章「Society5.0時代にふさわしい仕組みづくり」では、デジタル市場のルール整備(都道府県で5Gの整備等)、スマート公共サービス(マイナンバーの普及拡大と活用、手続き自動化等)、地域のインフラ維持と競争政策(乗合バス、地域銀行等)、東京一極集中の是正、地方への新たな流れの創出(地域連携プラットフォーム、スマートシティ等)、観光の活性化(広域周遊観光の推進、カジノ対策等)などが見られ財政支援にも触れています。また第3章「経済再生と財政健全化の好循環」では、デジタル・ガバメントによる行財政効率化(書類・対面手続きの簡素化、EBPMの行革推進、自助・共助・公助の役割見直し等)、地方行財政改革(持続的な地方行財政制度の構築、公営企業・第三セクターの経営の抜本改革、見える化の徹底・拡大等)、インセンティブ改革(PDCAサイクルの構築等)などがあります。地方創生に関しては、来年度から第二期の総合戦略が始まりますが策定に向けては、これまでの成果を検証し重要課題に対してはKPIを設定するなどして積極的に取組む地方自治体へは財政支援などインセンティブを強化する措置などを講じるよう述べています。全体としては地方行革の推進にも触れていますが、Society5.0時代に向けた新たな取組みが提示されているのが印象的です。
総務省の概算要求額
来年度の要求額は17兆1,928億円+事項要求(臨時・特別の措置)です。今年度の要求額が16兆6,295億円でしたので5,633億円(+3.4%)増です。また同時に公表された2020年度の地方財政収支に関する仮試算(一定条件で算定)は、総額は91.6兆円(+2.2%)、うち地方交付税は16.8兆円(出口ベース、+4.0%)、一般財源(地方税+地方交付税+臨時財政対策債)は63.8兆円(+2.0%)です。支出では一般行政経費が40.2兆円(+4.5%)で社会保障費自然増を反映して高い伸びとなっています。総額は2021年度まで2018年度の実質水準を下回らないことが基本方針2018に明記されていますので増額は約束されています。ただし、後の経済情勢や税制改正など国の予算編成の動向等により金額は調整されますがそれほど大きな変動はないと見込まれます。
内容をみますと、地方交付税の増額は10月からの消費増税と法人住民税一部交付税化を見込んだもので一般財源も2%増える一方で、財源不足は4.7兆円にも上り25年連続して不足が生じています。過去の臨時財政対策債(以下、臨財債)の元利償還が重しになっています。個別にはSociety5.0時代の地域社会の整備に関連して、通信インフラの整備やデジタル・ガバメント等の推進に合計で2千億円近い要求です。そのほか東京一極集中対策で「ふるさとワーキングホリデー」の事業費や大規模災害に対応した地域防災の整備などが計上されています。やはりSociety5.0に関連した予算要求が中心ですが合わせて公共施設整備も防災計画の見直しとともに早急な対応が求められそうです。
地方財政計画の見通し
地方財政計画(以下、地財計画)は12月末に政府の予算案とともに地方財政対策として発表されますが、この地財計画は、国の地方自治体に対する財政運営の指針であり、地方交付税による財源保障であり、また国との政策調整でもあります。最近の地財計画は堅調な経済のおかげで2013年度から対前年度プラスで推移しています。2020年度もプラスの概算要求なのでおそらく地財計画の規模は90兆円を超えるでしょう。しかし国が負担すべき地方交付税財源が2001年度から不足し、その分を赤字公債である臨財債を発行して地方の一般財源として充てています。図示のように、発行額は年々減少してきましたがなお3兆円余りに上っています。国と地方の財政健全化は待ったなしです。地方財政の一層の効率化・効果化が求められ、引続き公共マネジメントの行革や公営企業(上下水道)の民営化が進められているところです。
2020年度地方財政の課題
これまでのところ、予算編成で財務省との交渉で大きな問題はなさそうです。2年前に過去最大となった地方財政の積立金問題もその後実質的に微減となり取上げられませんし、地財計画と決算の乖離の問題も最近は縮小しその規模が90兆円台になっても問題視されないように思われます(あくまで個人的感覚ですが)。経済社会情勢が大きく変わらない限り、来年度の地財計画は前述のように、今年度に若干上乗せされそこそこ財源は確保されるでしょう。しかし一方で年々酷くなる自然災害に対する整備は根本的な見直しが迫られています。防災インフラや避難所等の抜本的見直しが急務となりました。さらに年々膨らむ少子高齢対策費は地方財政の硬直化をじわじわと進めています。これらの課題は避けられませんから、どう対応するか知恵の絞りどころでしょう。「基本方針2019」に記された‘Society5.0時代’を進めるなら、ビックデータやAIをこうした課題解決のソリューションとして提示することも有益ではないでしょうか。