コラム
2020(令和2)年度予算を探る(6)2020年度政府予算案の解説とポイント(後編)
2019.12.27
ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
明治大学公共政策大学院教授 兼村高文
政府の予算:①特別会計と財政投融資計画
政府の予算は一般会計予算のほかに特別会計予算と財政投融資計画があります。特別会計予算はまだ公表されていませんが、かつては40を数え‘すき焼き’に興じていると揶揄されていましたが改革が進められ、現在は国債整理基金、交付税及び譲与税配付金、年金など13会計になりました。歳出総額は400兆円近くの規模ですが会計間の取引や国債借換え、国債償還、社会保障給付、地方交付税などを除くと実質的な事業は6兆円程度しかありません。事業内容は保険事業、エネルギー対策、食料安定供給などです。ときに政策レビューで問題が指摘されることもありますが実態規模が縮小したことで、一般会計予算が政府予算の姿として映るようになりました。
財政投融資計画もかつては第二の予算といわれ計画額は50兆円を超えるときもありましたが、インフラ整備が進み政府の役割が福祉国家づくりに大きく転換した今日、規模は5分の1程度に縮小しました。また一般会計の公共事業費もかつての3分の1程度です。耐用年数を超えたインフラを放置しておくと甚大な被害が容易に想定されます。最近のインフラの老朽化対策で財投計画の役割が見直されています。2020年度は補正が加えられる可能性が大きいので、2019年度の補正後の14.6兆円を上回ることも予想されます。大規模災害への備えを含めて「国土強靭化」を進める中で有償資金による財投計画は再び活用される場面も多くなりそうです。
政府の予算:②「臨時・特別の措置」
2019年度に消費税増税後の景気対策として設けられた「臨時・特別の措置」は2020年度予算においても1.8兆円を計上しています。この措置による予算計上は、補正予算で計上することへの批判などから当初予算に臨時で特別の措置として計上しています。2020年度の内容をみますと「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」として1.2兆円、「キャッシュレス・ポイント還元事業」に0.2兆円、「マイナンバーカードを活用した消費活性化策」に0.2兆円、「すまい給付金」に0.1兆円などです。臨時的な措置ではありますが予算の重点化、メリハリの利いた予算など、予算の組み方が錯綜して細部をみないと政策が読みにくくなってきました。
地方財政計画の概要
地方財政計画は国会に参考資料として提出され議決されるわけではありませんが、地方自治体にとっては次年度の財政運営の指針となるものです。12月20日に発表されたのは地方財政対策でほぼそのままの金額が翌年の2月頃に地方財政計画として公表されます。2020年度の地方財政計画は90兆7,400億円程度(2019年度89兆5,930億円,+1兆1,500億円程度,+1.3%程度)で若干の増加です。また地方の一般財源の地方交付税は16兆5,882億円(同16兆1,809億円,+4,073億円,+2.5%)です。国の一般会計歳出に計上された地方交付税交付金15.8兆円は交付税等特別会計の入口ベースで、そこに加算されて出口ベースでは16.5兆円になります。これは地方財政計画から計算された額で、国が地方の不足分を財源保障しているからです。来年度もある程度の財源は国で確保してくれています。ただし地方の財源不足は依然として4.5兆円ほどあり、臨時財政対策債の発行も3.1兆円(同0.1兆円減)で残高は53.3兆円に達しています。
財政健全化はどう盛り込まれたのか
政府は基礎的財政収支(プライマリーバランス)を指標として健全化の目標年次を決めて財政健全化を進めてきました。現在は2025年度にプラス化を目標にしていますがすでに達成不可能と財務省も表明しています。2020年度予算では基礎的財政収支は2019年度と同じ▲9.2兆円です。2014年度の▲18.0兆円よりは改善していますがまだ当分の間、黒字化は厳しい状況です。予算編成に際しては必ず財政健全化の文言が見られますが2019年度から臨時の措置を予算に入れて景気対策にウエイトをおいていますので、健全化は経済再生の成果により達成するという政策がアベノミクスからの基底にあるようです。デフレからの脱却に道筋をつけて成長軌道に乗ったか乗せたか判断は難しいところでしょうが一応は最長となるプラス成長を実現し、つぎは福祉国家への道筋を世代間で公平な応分の負担をしながらつける段階です。このことを予算に明示しながら健全化を早急に進めないと大きなツケが近々回ってくる懸念を抱くのは私だけでしょうか。